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ボブ・マーリー:ONE LOVEのshxtpieのレビュー・感想・評価

ボブ・マーリー:ONE LOVE(2024年製作の映画)
5.0
あまりにも忙しすぎて、超ひさしぶりに映画を、しかも、ちゃんと映画館で見られた。とはいっても、仕事ではあるのだけれど……。

地下鉄の日比谷駅から地上に上がって、第一生命の本社の威圧感のあるマッシブな建物を初めてちゃんと見つめて、「こういう建築物、ほんとにキモいな……」と、ひどい感想が漏れた。

TOHOシネマズ日比谷が入っているきらきらした商業施設(来るたびに、ここのリッチで高級感のある雰囲気が苦手だと感じる)に着くと、なにやら騒がしい。ジャパンプレミアに付随したレッドカーペットのイベントを1階でやっていて、取材のひとたちやら謎の賑やかしやらオーディエンスやらが集まっている。スーツを着たバイトっぽい若いひとたちが、「立ち止まって見るのは禁止!」とかなんとか書かれた紙を掲げており、いやな感じ。しかし、観客たちは、上層階から吹き抜けを通して、ばっちりとのぞきこんでいた。

そんなざわめきを横目に、スクリーンの入り口までようやくたどり着くと(TOHO日比谷への道のりは、毎回迷う)、外国人たちやスーツでびしっときめた要人っぽいひとたちが集まっていて、けっこうお祭りっぽい雰囲気。受付では、明るい対応でがんばっているお姉さんから紙製のフラッグが渡された。一方、布製のいい感じの旗を持っているひともたくさんいて、微妙な格差を感じた。

客席は、日本の招待客のほかは、先に言った要人っぽいひとたちを含めて、多くがアフリカ系。このムードは、なかなか新鮮だった。

ジャパンプレミアがいよいよ始まると、司会による「私が『ボブ・マーリー』と言ったら、みなさんは『ワ〜ンラ〜ブ!』と返してください」という、あのいやな、いかにもな指導がなされたあと、高岡早紀さんとチョコレートプラネットの松尾駿さんという謎の組み合わせに、レイナルド・マーカス・グリーン監督、プロデューサーのジギー・マーリー、主演のキングズリー・ベン=アディルが壇上にあがって、しばらくトーク。ジギーのヤーマンでラスタファーライな簡潔な言葉、監督が一週間前から日本に来ていて、観光しておいしいものを食べすぎてスーツがきついと言っていたこと、ベン=アディルがパトワ語の習得は途方もなく遠い道のりだと語っていたことが印象的。高岡早紀は、遠目から見てもわかる淫靡な色気をもわっと放っていて、湘南育ちで彼氏とボブの音楽を聴いていたことなど、もう、それだけでお腹いっぱいです!! と思わせられた発言を冒頭に放つ。

で、肝心の映画である。冒頭からけっこういやな予感がしたのだけれど、やっぱり、画がいまいち。というか、はっきり言って、映像がよくない。被写界深度の浅い、退屈なクローズアップを中心にしたカット、矢継ぎ早な編集、時系列の入れ替え、エモーショナルで野暮ったいスローモーションの多用など、見ていて、なんとも言えない表情になる。いいカットは、まったくない。ドラマの盛り上がりを喧嘩や感情の爆発などに置いているところも、かなり微妙。ただ、「一般向けのドラマ映画」という点では、こんなものなのだろう、とため息。

そもそもの話しだが、ボブの幼少期などの過去をクロスさせつつも、メインのプロットは、彼が亡くなるまでの数年、銃撃に遭ったり、『エクソダス』をつくったり、そのツアーをしたり、癌にかかっていることが発覚したり、というものである。これがまず、なんだかダメなのである。えっ、そこから始まるの!? という、悪い意味での意外性や、物語に入りこんでいけないハードルの高さ、構成の悪さが、ずっと引きずって感じられる。もうちょっと、シンプルな伝記もののほうがいいんじゃないの……? と思いつつも、そんなことを言ったってしょうがない。

と、いきなりネガティブな感想ばかりを述べてしまったけれど、冒頭から、音にはぶっとばされた。席の位置があんまりよくなかったとはいえ、ボブの音楽が、TOHO日比谷スクリーン1の極上の環境で聴けたことには大満足。曲が流れてきたら、強烈なビート&リズムに、からだが思わずのってしまった。レゲエのなにがいいのかって言ったら、やっぱり、あのものすごい音なのである。それを、最高級に近い施設で聴けたうれしさ。ただ、この映画は、スコアもなかなかひどくて、それを爆音で聴かせられたのは、かなりつらいものがあった。

もうひとつ。いいところも、もっとちゃんと言っておく。ベン=アディルの演技は、すごくよかった。声も顔もボブにそこまで似ていないけれど、ステージ上での動きや歌いかたの再現には、かなりしびれた。まさに、ボブがのりうつっている感じ。鳥肌が立った。相当、研究や模倣を重ねたのだろう。役者魂を感じた。また、脚本にはユーモアもあるから、その点は救いだった。しつこく繰り返されるスピリチュアルな映像からの、白人の父との和解、みたいな終着は、あまりにも短絡的すぎるか。

それから、ボブのアコースティックな曲はそんなに好きじゃなかったんだけれど、この映画を見て、はじめて沁みた。ぐっときた。ボブがアコースティックギターで弾き語る、剥き身の曲と歌の魅力にはやられたし、打ちのめされた。ボブのリリックも、これまででいちばん直接的に、はっきりと、まっすぐ心に入ってきた。ボブの音楽をはじめて聴いてから20年近く経っているけれど、彼が歌っていること、メッセージ、その意味が今、ようやくわかったというか。そして、ボブの歌は今こそ必要なものだ、という優等生的で模範的な、つまらない感想も出てきた。

思わずうるっときたのは、最後のボブ本人の映像。終盤のあるシーンでは、おそらく、本人のインタビューの音声をつかっていた。そう考えると、ボブの歌と声、音楽や映像は、おそろしいほどに強烈で力強いのだけれど、本人の音楽や映像にこの映画が勝っている瞬間があったのかというと、言葉を濁すほかない。

というわけで、映画としてはちょっといまいちではあるけれど、映画館でボブの音楽を浴びられることや、演技のよさなどに鑑みて、見て損はない映画だと思います、と言っておきます。

エンドクレジット中には手拍子が巻き起こって、踊りだすひとも多数。上映後の客席は、そこらじゅうにぶちまけられたポップコーンで汚れていて、めちゃくちゃな状態だった。そんな、なかなかおもしろいジャパンプレミアの体験でした。

(試写で見たので、5点満点にしておきます)
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