脳内金魚

RED SHOES/レッド・シューズの脳内金魚のネタバレレビュー・内容・結末

RED SHOES/レッド・シューズ(2023年製作の映画)
2.0

このレビューはネタバレを含みます

びっっっっっっくりするくらい、登場人物に魅力がなくてどうしようかと思った。二時間切る尺なのに「終わらないなぁ」と思いながら見てました。

キャストプロフィールを見ると、主役サム(サマンサ)役のジュリエット・ドハーティはクラシックバレエの素養があるようなのだが、グレイシー役の俳優(こちらは現役のバレリーナ)に比べ明らかに体が重そうなため、劇中のバレエ講師の「仲間に怪我をさせるつもりか」と言う台詞が笑えない。(このシーンは本来は体重云々ではなく、技術面で言っているシーンなのだが…)また、現在は舞台ミュージカルがメインなのか、劇中の彼女のダンスが、どちらかと言うと素人目に見てコンテンポラリーに近い。劇中作の『赤い靴』はどちらかと言うとクラシックバレエっぽい。そのため、サムが半年のブランクの後に、暫定とは言え再度主役に抜擢される、と言う設定に説得力を持たせるには彼女のダンスシーンはいささか力が弱い。
他、サイズが一緒とは言え、お下がりのトゥシューズ(カンパニーで主役を張るような実力があるのならなおさら)を使ったり、大事な本番前に他人にトゥシューズの紐を結ばせたり、素人目から見てもどうなんだろうと言う演出が多い。

まぁ、このあたりは「なんちゃってバレエ映画」と思えばありなのだろうが、脚本と言うか、本当に人物描写が雑すぎて作品の魅力がない。

物語の発端となる姉アニーの事故死だが、まず出番直前(本当に直前)なのにそもそも舞台袖で電話しているのがあり得ないだろうと。(舞台袖って意外に音目立つ)おまけに、もう出番なのに「わたしの役じゃない。あなたの役」と弱音を言い出す。実はこのサム、終始自分のバレエに自信がなく、似たようなことを何度も言う。少なくとも主役を張るくらいの実力はあるはずなのに、過度な自己卑下はこういう集団演技では周りのモチベーションを下げるんだよね、とは個人的思い。それって、暗に選んだ講師陣の審美眼への批判だし、じゃあ選ばれなかった仲間はもっと下って無意識に貶めてるんだよね。

結構、このサムのバレエへの思いの描き方が雑に感じられ、わたしはつまらなかったのだと思う。
アニーの事故から半年間(つまり、劇中の現在時間軸まで)、サムはバレエを一切していない。当然技術は落ちている。それなのに、たまたまグレイシーの代わりを少しやっただけで、急遽代役に抜擢される。(このときの控え役が振り付けを覚えていないと言うのもあり得ないと思うが)では、そこで仲間はおろか、講師のハーロウを納得させるだけの技量があるかというと、そんなことはない。おまけに、レッスン参加するか否かの最終決定権はサムにあり、参加を決めたのはサムだ。それなのに、レッスンに遅刻をするは、人の倍練習をするわけでもない。何度もやり直しをさせられるシーンでは、サムは露骨にイライラし、挙げ句の果てにハーロウに怒鳴り散らし怒って出ていってしまう。このときも、そのあとのあるシーンでも彼女は「わたしはやっている/稽古をしてる」と言うが、それは同時に周りも同じことだ。ましてや、サムは周りとは半年の差がある。おまけに、その間バレエから離れるのは分かるが、友達のイヴと万引きをしたりと、いやそれはアニーの死は関係なかろうて、と突っ込みどころ満載。特に半年間で、実はバレエをこっそりやってましたと言うオチもなく、彼女が人より練習しているシーンもない。終盤でやっと自主練や体力作りをするシーンが出てくるが、そのときには正直「今さらかよ」と言う気持ちしか沸かなかった。

冒頭アニーが死ぬ件などは、正直ベタすぎて、うん、まぁよかろう…と目を瞑ったが、結構終始こんな感じ。次にサムとイヴの関係。素行のよくないイヴとの付き合いは、親がよく思っていないだけでなく、姉のアニーすらあまりよく思っていなかった。さらに、単に素行の悪さだけでなく、生活階層もふたりは異なる。片や娘二人にバレエをさせられる家庭、片や家賃や光熱費の支払いに困るような家庭だ。共通点の全くないふたりが、なぜ周囲の反対を差し置いても付き合うのか、その詳しい描写がない。それなのにやたらと二人がつるむシーンが挿入されるため、話がとても散漫になっている。そこに唐突に挟まれるイヴサイドの話も雑音に感じられる。それなら、イヴそのものを削ってバレエ仲間やアニーとの絆を描いて、サムの人物像を深めてほしかった。
しかも、イヴに助けが必要なとき、サムはやっとバレエと真剣に向き合うようになったため、彼女からの連絡を無視する。その前に、彼女から身の上話を打ち明けられ、頼ってくれと言ったにも関わらずだ。イヴはアニーが不慮の事故で亡くなり、バレエが出来なくなったサムに寄り添ってあげていた。もし、本当にサムがイヴのことを思うなら、一言「今は無理だ」と告げればよかっただけだ。結局、サムにとってイヴは都合のいいときに都合のいい付き合い方をしたかっただけのように見えるのだ。それはサムの両親にも言える。最初は彼女がサムに近づくことを嫌がっていたのに、サムが(両親の望むような品行方正な)立ち直りをしたら、途端に家の立ち退き請求されたイヴを家に居候させるなど非常に現金に描かれる。
で、バレエにやっと向き合ったかと思えば、イヴとのトラブルで控え役の子のサポートをほったらかす。うーん…。もう何したいのだか…。このような描かれ方しかしないので、サムが癇癪を起こした非常に子供っぽい子に見えてしまうんだよね。

極めつけは、正規の控え役がいたにも関わらず、舞台本番で主役の一言でサムが主役に抜擢されたこと。いやいや、さすがにそれはないよぉ。

あと最後に。猫も杓子も、登場人物の関係者を殺すんじゃありません。

なんだろう。同じダンスを題材にした『ダンサー イン パリ』や『ストリートダンサーズ』と比べ、作りが雑で残念!
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