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メドゥーサ デラックスのコマミーのレビュー・感想・評価

メドゥーサ デラックス(2022年製作の映画)
3.7
【蛇のように】



※fans voice様のオンライン試写会にて鑑賞





本作の監督"トーマス・ハーディマン"は、美容師の親を持つ監督だ。なので本作の題材にもなっている"ヘアスタイル"にも触れ、そんなヘアスタイルの世界を舞台にした"初長編作"を発表した。
その背景には、"BBC"や"英国映画協会(BFI)"が監督が過去に手がけた2作の短編映画を高く評価したと言う背景がある。良心的なメディアや組合・協会の支援を得て、本作が誕生した背景を見て、日本との映画や芸術への触れ方の違いを実感した。

さて、今作で評価すべきなのはまず"撮影技術"。本作は監督の初長編作にして、凄い"強固な布陣"で製作されている。その中の1人目が"ロビー・ライアン"と言う人物だ。
どこかで聞いた事あると言う人がほとんどだと思うのだが、この方はあのヨルゴス・ランティモスの「女王陛下のお気に入り」で魚眼レンズで撮影した人物だ。そして今回は、全てのシーンを"ワンショット"で撮影している。しかもただのワンショットではなく、本作の題名にあるようにメドゥーサの蛇の髪のように、まるでそこを"這うような"撮り方をしている。それゆえ、登場人物が置かれている状況に対する"時間経過によるストレス"や"周りの不安感"を一緒になって体感する事ができるのである。相変わらず、このロビー・ライアンの撮影の表現力は素晴らしいと感じた。
そして強固な布陣2人目は、ヘアスタイルを担当している"ユージン・スレイマン"と言う人物。ファッションに凝っている人なら誰しもが聞いた事があるだろう。あのレディー・ガガの奇抜なヘアメイクを担当し、様々な分野でヘアスタイルを担当してきた人物だ。そんな彼が、劇中に登場するモデル達の奇抜なヘアスタイルを担当している。船を乗せてみたり、メドゥーサのようなウネリのある髪型と、ユーモアと輝かしさが入り混じった髪型がどんどん登場して面白かった。

作風としては、本作ではミステリーとしての物語の裏に登場人物の"コンプレックス"に対する考え方や"宗教"の在り方など、現代社会だからこそ考える人々の考え方の違いやそれと"向き合う事の難しさ"を描いていた。
ラストの展開は、ちょっと拍子外れではあったが、意外でもあった。そしてエンドロールでは登場人物達が"ディスコ風なダンス"をしているシーンが出てくるのだが、それは登場人物達の"心の解放"がよく描かれており、同時に観ている私達もそれから解放された。

北米では"A24"が配給権を獲得した本作。初長編作としては紛れもなく大きな布陣で、評価的にも好調なスタートであったと言えよう。
髪について触れてきた家庭で育った監督だからこそ実現したヘアスタイルの世界を舞台にしたミステリー作品。オシャレながらも、陰湿な全く新しい作品が誕生したと言えよう。

多様性を描く作品としても確立していた、現代だからこそ実現した作品だった。
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