鹿山

メドゥーサ デラックスの鹿山のレビュー・感想・評価

メドゥーサ デラックス(2022年製作の映画)
3.5
 擬似ワンカット×密室ミステリー。全編においてカメラが特定の人物の背後をさながら亡霊のように追従していく。これは『クローバーフィールド』『1917』にも似た、3Dゲーム風世界観の輸入のように思える。けれど、前述の二作よりさらに現実世界に近いタイム感に寄せてあるね。ゆえに序盤は無加工の時間感覚がかったるく感じられるけれども、観ているとだんだんその倦怠感は作中人物と共振していく。登場人物が密室で疑心暗鬼を募らせている空間に居合わせていると、こっちの観客席まで居心地が悪くなっていく。相互監視と疑心暗鬼の渦中に巻き込まれてしまうのだ(むろんいい意味で)。
 だらだら垂れ流される映像の代わりに、劇伴が本作全体にリズム感をつくっている。ブツブツと再生/一時停止をくりかえす音が映像のカット編集の換喩として、空間に切断線を入れているね。

 だがどうだろう、要所要所はおもしろく鑑賞したが、立場上自分はあんまり首肯できないかもしれない。ラストシーンで特に顕著なのだけれど、本作はあまりに劇場鑑賞を前提としすぎている。いいかえれば、アウラに頼りすぎているんじゃないかと思えるのだ。これがたとえば『クローバーフィールド』『ハードコア』のように一人称視点のカメラを用いるとか、『1917』のように時間や空間を大胆に省略してみたりという詐術をもっとふんだんに用いればあるいは違ったかもしれない。でも本作は、現実的な時間感覚とゲーム的時間感覚のあいだで、宙ぶらりんになっている。申し訳ないが、ぼくは本作の演出する空間が、スマートフォンなどでの鑑賞に耐えうる拘束力をもっているとはとても思えない。ゾンビ化した「映画館」という制度に依存せんとするなら、「映画」はさらにアクチュアリティを損なうよ。

 レネとアンヘルの絡みがよかったです。
 あと髪の炎上から、階段を駆け降りていく一部始終、後半のビルを見上げてギャックへとズームしていくシーンがすき。
鹿山

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