戦争という常軌を逸脱した空間の中でおぞましい体験をした人が、精神の安定を破壊され、廃人となってしまう恐ろしさとやりきれなさのようなものをストレートに描いている。日本は敗戦から立ち直り、復興を果たすことになるが、その影で怒りや悲しみを抱えてひっそりと生涯を送ることになった人たちがいたことを思い出させてくれた。私の世代では子供の頃には、まだ傷痍軍人と呼ばれる人がいたが、その姿はとても哀しく、直視できなかった。
ただこの映画では闇市が凄く活気のあるものとして描かいており、市井の人たちのたくましさのようなものも思い知らされる。終戦間もない頃の光りと影を真っ直ぐに描いた作品だと思う。そして趣里と森山未來の演技力に驚いた。趣里は最初にみせる気だるさから母性を取り戻していくまでの過程を見事に演じている。また森山は無表情な中に時おりみせる狂気や悲しみをとても的確に表現している。