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ナポレオンのTSのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.4
【フランスを愛した英雄】93点
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監督:リドリー・スコット
製作国:アメリカ
ジャンル:歴史
収録時間:158分
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 2023年劇場鑑賞48本目。
 ウルトラ大作。今年最後の月にして洋画暫定ベストが来ました。まあかなり期待していた作品なので驚きはしません。そもそも『ナポレオン』なんていうこんなどストレートなタイトルを出してくるのは近年では稀。それほどに、リドリー・スコットが本気で製作した作品であるということが容易に想像できます。テルミドールのクーデタ、アウステルリッツ会戦、ワーテルローの戦いなど世界史を勉強してきた者なら誰もが覚えたであろう有名な事柄がこれでもかというくらいテンポよく描かれるので素晴らしい。贅沢な映画でした。満足度も非常に高かったです。ただ、確かに娯楽性には欠けるので、一般ウケはやや厳しいかもしれません。

 今作は、マリー・アントワネットの斬首刑から始まり、ナポレオンがセントヘレナ島で生涯を終えるまでのエピソードを、非常にテンポよく描いています。なので、今作は実は4時間半のバージョンがあるようで、近日Apple TVで配信される模様。確かにナポレオンの軌跡をしっかり追うのならばこれくらいの尺は必要でしょう。テンポよくといいましたが、ナポレオンマニアの方がみたら、欲張りすぎなのでやや不満になるのかもしれません。それでも、世界史の教科書をなぞらえるかのような展開には唸らされましたし、世界史好きにはぜひ見てほしい作品と思いました。

 それにしても、『ナポレオン』を主人公にした作品はやはり大作になりやすいですね。ほぼちょうど100年前に製作されたアベル・ガンス監督の『ナポレオン』も尺が4時間近くある大作。しかも戦闘シーンを3画面で撮影して見せるという、当時ではあり得ない手法で攻めてましたからやはりこの歴史人物を映画で描くのならば生半可な覚悟ではいけないということなのです。で、今作を手がけたのはかのリドリー・スコット。しかも、ナポレオン役は『ジョーカー』でかなり有名となったホアキン・フェニックス。2人のタッグはかの『グラディエーター』以来のようで、こんな組み合わせで中途半端な作品ではないということは容易に想像できました。結果、今作は100年前のアベル・ガンス版『ナポレオン』に負けず劣らずの作品となりました。

 ところで、ナポレオンって自己顕示欲が強かったので自分を格好良く見せようと身長を高くした絵画を描かせたりと何かと工夫をしていました。ところが実際は身長はあまり高くなく、毛も薄かったとのこと笑 ただ、ホアキン・フェニックス演じるナポレオンにはあまりそのような様子はなく、ただただ1人の女性をひたすら愛する普通の人間の一面が垣間見れました。今作のナポレオンにとってのキーパーソンは、最初の妻であるジョゼフィーヌなのですが、このパートがところどころ出てくるからこれが評価の分かれ目となりましょう。でも、戦いばかりしているナポレオンにとって、本当に心の拠り所であったということがひしひしと伝わってくるためなんだか心寂しくなりました。どうなるかという結論を我々は知っているから余計でしょう。

 エジプト遠征やロシア遠征の描写は痺れましたね。当たり前ですがナポレオンが見上げたあのピラミッドは、現代でも我々は見れるのですから時空を超えてナポレオンと繋がったと感じてしまうシーンでした。またロシア遠征の有名な焦土作戦もリアルに再現されていて鳥肌がたちました。授業では簡単に、自分の町を焼いて退散したんだ。なんて言ってましたがいざあのモスクワがもぬけのからになっているのを見たら言葉を失いましたね。それほど、命をかけてロシア人はナポレオンと対峙する必要があったのです。

 文句なしの歴史大作映画なのですが、尺も2時間半近くなので物好きでないと長く感じるでしょうし、また全編暗いフィルターがかかっていて明るく楽しめる映画かというとそうではありません。また、肝心の戦闘シーンは8000人のエキストラ、11台のカメラで撮影しているため文句なしに迫力のある映像であるのですが、皮肉にもこういう群衆のシーンはCGで散々と映されているから鑑賞者の目が肥えてしまっている可能性があります。特に日本では最近のキングダムシリーズや、時代劇モノにそういうシーンが多いので、まあ迫力はあるけど目新しいものではないな、と思えてしまうのかもしれません。で、自分が感じたのが、剣を持って馬に乗り突撃という、ワンパターン戦法が多いなということ。これがキングダムシリーズや時代劇モノならもう一工夫あると思えるのですが、今作は実際のエキストラ数というところだけで押し切っている節があるので、一般ウケがやや厳しいかなと感じました。また、フランスの重要な歴史なのに、アメリカ製だから終始英語というのも、こだわりがある方からすると不満となるのでしょう。ただ、僕としては覚えてきた歴史的な戦いを大スケールで描いてくれているだけでも感無量でしたし、なんといってもナポレオンの存在感が終始素晴らしかったので文句はないです。

 色々と言いましたが、結局はこれだけの有名人についての話を、変な着色をせずに堂々と描いて世に送り出すという潔さに脱帽しました。最近は良くも悪くも変化球の映画が多すぎるので、タイトルも然り、どストレートな映画を最新の映像技術でどんどん製作していっても良いと思うんですよね。そしてそういう映画は長らく語り継がれていくのだと思います。今作がそのような流れの起爆剤になることを願いたいです。万人にはオススメできませんが、世界史好きにはオススメ。何も知らないのは少しもったいないので、ナポレオン戦争の流れを一通り予習してから見るのがベターかなと思います。
TS

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