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ナポレオンの06のレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.8
市民革命のち恐怖政治、クーデター、結果再び王を抱いたフランス動乱の時代。

ナポレオンを決して英雄扱いしなかった映画。優秀な男としても、偉大な王としても描かず、むしろ作り物ではないカッコ悪さを見せる。
もっと英雄譚のように、戦争戦争勝利戦争、のような描き方をするかと思いきや、三分の一は妻との恋に割かれている。そういう意味では"ナポレオン"というよりも"ナポレオンの恋文"の方が映画のタイトルにあってたような気もする。

ナポレオンの周囲の人間の顔ぶれは代わり続ける。妻も含めて、誰一人としてナポレオンの側に並走し続けない。それが彼の人柄を表しているように思えた。しかし、民衆の支持は得たのであろう。後半、流刑先の島から戻るところなど一見ドン・キホーテ的な無謀さ、愚かさに映るが、すぐにそれを覆しワーテルローの戦いとなる。そこに、どれだけ映画がナポレオンをただの男に貶そうとも、拭いきれない英雄の気配がある。

ところで、ナポレオンの愛読書がゲーテの「若きウェルテルの悩み」だったのがずっと謎だったのだが、この映画を観て腑に落ちた。妻に当てた恋文の多さよ。

しかし耳に聞く程度の歴史と、一人の人間の生涯を追った史実では印象が大きく違う。英雄と名高いナポレオンが「殺しておけばよかった害虫」と呼ばれていたなど、どうして想像出来ようか。「悪魔」なら分かる(宣伝文句もそう書いてある)。戦争の英雄は敵国からすれば恐怖そのものであろう。しかし、「害虫」。簡易な歴史は個人の栄光の時代のみが取りざたされるので、没落後の世論まで想像が至らない。それに気づけただけでも、良い映画である。

そして、人生生きてれば失敗することがある。我々は失敗に大変敏感で落ち込みやすいが、今度からは「けど、英雄ナポレオンも戦争で失敗して56万人殺したけど、まだ生きて、しかも政権に復帰しようとしたしな」と思えるようになりそうだ。
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