ナポレオンのmizuのネタバレレビュー・内容・結末

・セックスが下手な男って、辛いんだな。ここでいうセックスが下手、とは、人に受け入れられて肯定されたいのに、他人を愛せないという意味です。全ての領域において、彼が行うすべての愛情表現が、自慰行為以外の何ものでもないということです。そしてそれが、自分以外の全員からバレている。

・おそらく母との関係の中の拗らせを抱えたまま（ぽっかりと埋まらない空洞、喪失感を抱えたまま）大人になった男が、女（そして地位、名誉）に固執する（女性、国家、国民を加害する）、リドリー・スコットさすが見事に描いてみせる。『麒麟がくる』の染谷将太の織田信長にそっくり。モスクワ遠征で都を焼かれたときのナポレオンが地団駄を踏むシーンと、吉田鋼太郎演じる松永久秀が「南無三宝ォーッ！」と絶叫しながら自害して、欲しかった名器・平蜘蛛が手に入らず悔しがる染谷将太の織田信長、マジで全くおなじ。

・映画という枠組みの中で、英雄ナポレオンを描くのではなく、その至らなさを描くならば、もっと戦闘シーンを削っていいと思った。そっちにするならば、主題を「ジョゼフィーヌ」に、副題を「“英雄(あるいは悪魔)”の妻」とするのはどうだろう。男女ふたりの関係に集中したほうが良いと思った。

・アウステルリッツ三帝会戦やワーテルローは金のかかった映像で手に汗を握ったけど、若干の消化不良だった。なぜか。例えばアウステルリッツであれば、プラッツェン高地を巡るナポレオン用兵の妙、みたいなところをこそ見たかったからだ。というか、それを描かないなら、時間の制限もあるし戦争の描写を削ってよい。ナポレオンが人間的に欠落していることと、軍事的には世界史上屈指の天才と言わざるを得ないことは、同じ映画のなかで同時に描いていい。むしろ、そっちの方が面白くなると思うんだよなぁ

・あーだこーだ書きたいのだが、結局私は歴史オタク、軍事オタクの側面が強い。いまから300年前に、多くの人命が失われた戦争を歴史スペクタクルとして消費したい人間なのだ。

・エンタメと戦争って、根深いので、自戒を込めて自分の中で哲学しようと思いました。感想書いてよかった。