カルダモン

ナポレオンのカルダモンのレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.3
史実と違うとか時代考証がなっていないとか、見る人が見れば色々と看過できないポイントはたくさんあるんだろうけど、ナポレオンにまったく興味のない私はわりと面白かった。

幾多もの戦争で勝ちに勝ちまくった軍人でも、たったひとり愛する妻ジョゼフィーヌには敵わない。遠い戦場に赴いて今まさに砲撃を受けている中でさえ彼女のことが気がかりで心ここに在らず。もしかしたら浮気してやしないか、早く君に会いたい、などとラブレター攻撃の手を緩めず。そのくせ帰宅するなりケモノのようなセックスをブチかます。もはやセックスと言うよりも交尾でしかなくて笑うやら呆れるやら、ここまでカッコ悪く情けない姿で描かれたことはなかったんじゃないでしょうか。
英雄譚とは程遠いむしろ真逆の姿。戦争そっちのけで愛に耽るダメ男。私にはそれが面白く、そんな描き方も全然アリだと思ったのでした。なにはなくともリドリー・スコットの作り出す映像美とお伽話、度を越した美術セットや大勢のキャストを費やした映画だから配信で見るのは勿体無い。
やはり圧倒的な画作り。冒頭マリーアントワネットの処刑シーンから始まり、最後の最後まで退屈する画はない。特にアウステルリッツやワーテルローの戦いを描いた場面では力の入れ方が飛び抜けていて、ほとんど漫画のような展開。凍った湖に砲撃し、足場の氷を割って敵襲を湖に叩き落とすとか、数十人がひと塊りの正方形の陣を構えて四方八方からの攻撃に耐えるなど、
無数の人と人が画面内を埋め尽くす。

地位や名声が上がるほどに浮かび上がる小ささと、その虚しさ。