マインド亀

ナポレオンのマインド亀のレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
4.0
どうしようもないくらいカッコ悪いナポレオン

●予告編でかかるアウステルリッツの氷上の戦闘を観るたびに、「面白そう…」と呟く中2の息子。アメコミ映画一本やりの彼が歴史戦争巨編にやっと興味を持ったことが嬉しくて、首を長くして公開を待っておりました。公開日翌日に二人で鑑賞。
鑑賞後、映画館を出た直後に息子と最初に交わした言葉は、「ナポレオン、キモかったね!面白かったね!」でした。
息子は戦闘シーンが『キングダム』と違って面白かった!とおよそ満足そうでしたが、親としてはガン突き立ちバックのナポレオンとマグロのジョセフィーヌのセックスシーンに気まずい思いをしてしまいました。

●作品全体の感想としては、世界史情弱勢の私でも名前くらいは知っている有名な戦いをテンポよく挟みつつ、同じくらいの強度でジョセフィーヌとの愛憎劇をメインに、英雄ナポレオンの有害で気持ち悪い側面をこれでもかと叩きつけた快作だと思いました。
初めて会ったジョセフィーヌを棒立ちでロックオンするナポレオン、ジョセフィーヌの股間を仰視するナポレオン、ジョセフィーヌに椅子を寄せるナポレオン、ジョセフィーヌからの手紙の匂いを嗅ぐナポレオン、テーブルの下から忍び寄るナポレオン、「手紙、毎日書いてくれる?明日は?あさっては?」とうんざりするほどチャイルディッシュに聞いてくるナポレオン………。
キモいという言葉で片付けるのは簡単ですが、権力や戦争・征服を求め続けるという、彼特有の生きづらさすら感じました。彼はジョセフィーヌと比べても低身長であり、見た目の劣等感を埋めるために攻撃的で支配的な社会行動をせざるを得なかったのかもしれません。(ナポレオンは身長168センチとホアキン・フェニックスよりもさらに5センチ低いようです。)

●エルバ島から脱出し、側近を引き連れ戻ったナポレオンの討伐軍を前にした「兵士諸君!諸君らの皇帝はここにいる!さあ撃て!」の有名な啖呵も、当事者ではない我々から見ると、ナポレオンのコスチュームを着たコメディアンのようにも見え、とても滑稽でした。
ひょっとすると、イギリス人監督が撮った英語劇の『ナポレオン』という性質がそう思わせるのでしょうか。
軍隊を見捨てて逃げおおせ、イギリス海軍の戦列艦ベレロフォン号に投降、そこで若い士官達に説教をたれながら一人イギリスの食事に舌鼓をうつナポレオンは、本当に有害なマチズモの塊にしか見えません。こんなやつは地獄に行っても、ジョセフィーヌの靴の裏を舐めてるのがお似合いだとでも言うように、喜劇のようにキモく描いてくれたリドリー・スコットにありがとうと言いたい!そんな作品でした。

●また、素人の私から観ても戦略家として天賦の才を発揮しているように見えるのは、あの予告編のアウステルリッツの戦いのザッチェン湖の氷の戦闘くらいで、あとは割と大砲のゴリ押しに見えてしまいました。ザッチェン湖での戦闘もあくまで伝説でどこまで戦略としてやっていたのかも怪しいところではありますが、玄人にしかわからないような地形や隊形を利用した戦略をあえて見せずに、分かりやすい見せ場だけをギュッと凝縮した戦争描写は圧巻でした。

●北野武監督の『首』にも共通すると思うのですが、歴史に名を残した偉人たちの、クソみたいなくだらなさを描いていくのは、なんとなくきな臭い香りが漂う現代の風刺のようでもあり、戦争のバカらしさを伝えたい高齢監督のトレンドなのかもしれません。今あえてナポレオンを撮る意味を考えざるを得ないのです。
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