camuson

インビクタス/負けざる者たちのcamusonのレビュー・感想・評価

4.0
非常にシンプルで、テーマが絞られていて、無駄のない、良質な映画です。

実話に基づいた作品なので、嘘くさい大げさな演出にならないよう
丁寧に作られている印象を持ちました。

南アの大統領が分裂した国をまとめるのにスポーツを利用するお話
と言ってしまうとそれまでですが、
国が置かれている状況からするに、藁にもすがるのはむしろ英断であり、
そんな一縷の望みに近い目標を、強い信念により
実現に結びつけた成功物語が描かれています。

時は1995年ラグビーワールドカップ南ア大会当時。
主人公は、南ア大統領ネルソン・マンデラと
南アラグビーナショナルチーム主将のフランソワ。

南アと言ってまず連想されるのはアパルトヘイトでしょうか。
アパルトヘイト時代における黒人の不幸は、私の想像を超えたものですが、
生まれる国を選べないのは、白人にも言えることであり、
アパルトヘイトが廃止された南アで、白人として生きていくことは、
先祖の負の遺産を背負い、常に復讐におびえながら生きていくことなのだ、
ということを暗に気付かせてくる作品でもあります。

日本に住んでいると感覚がずれてしまいがちですが、
復讐の連鎖を断ち切らずに、とりあえず未来のことは考えずに、
子孫をも不幸の連鎖に巻き込んでいくのが世界標準の考え方で、
マンデラ大統領は、それが不毛であることを悟ることができた希有な指導者のようです。
非白人と白人が法的には平等になった今、白人支配時代からの誇りである
ラグビーナショナルチーム「スプリングボックス」まで白人から取り上げてはいけない、
そういう「負けるが勝ち」的なバランス感覚をも持っています。

マンデラは、大統領になる前に、反アパルトヘイト活動により、
27年間の投獄生活を強いられましたが、
「自分の人生の支配者は自分自身である」という詩の一節を心の支えに、
決して信念を曲げることはありませんでした。

敵対し合う国民がまとまるには、国民としての共通の誇りが必要なこと、
ものを成し遂げるには、決して屈服することのない信念が重要であることを
主将フランソワに伝え、これが、チーム内にも伝搬し、
自国初開催のワールドカップで初優勝が現実となります。


この作品のテーマは誇りと信念、そしてその伝搬。
シンプルで事実以上の驚きはありませんが、だがそれがいい。と言える作品です。

その後の南アの治安はいっこうに良くなっていないように思いますが、
何らかの前進があったのかどうかは興味深いところです。
camuson

camuson