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コーポ・ア・コーポのnetfilmsのレビュー・感想・評価

コーポ・ア・コーポ(2023年製作の映画)
3.8
 複雑な過去を背負い、家族や友人たちのしがらみから逃れて来たフリーターの辰巳ユリ(馬場ふみか)がさながら、コーポの管理人のように振る舞う。女性に貢がせて暮らしている女ったらしの中条紘(東出昌大)、女性への愛情表現が不器用な日雇いの肉体労働者の石田鉄平(倉悠貴)、そしてコーポの一角で怪しげな商売を営む初老の宮地友三(笹野高史)がオーナーなのだが、出て来る登場人物たちが誰もかれも愛おしい。彼らが暮らすのは、大阪の下町にある安アパート『コーポ』。ある日、コーポの住人・山口が首を吊って死んでいるのを宮地が発見する。一同は警察へ連絡する一方、山口が拾ってきた家電で埋め尽くされた部屋で欲しいものを見繕う。石田は、山口が自殺を図る前日に金を借りに来たのを断ったと話し、少しでも貸していたら死なずに済んだのだろうかと悲嘆に暮れる。ユリたちが石田を慰めていると、恵美子(藤原しおり)がやってきて、石田にタバコの交換を持ち掛ける。どうやら山口の借金を断っていたのは、石田だけではなかったようだ。六畳一間の安アパートで繰り広げられる物語は実にリアルで生々しい。

 同名漫画を実写化した物語はさながら高橋留美子の『めぞん一刻』の雰囲気すら醸す。馬場ふみかはこのコーポの主であり、住人たちを繋ぐ接着剤であることは間違いないのだが、彼女にも一生ついて回るような烈しい業が横たわる。住人たちはみな不器用で、どこか屈折している。牧歌的にも見えるが、群れてもいない。だが互いを思いやる様子には昭和の風情が漂う。山口が死ぬ前に集めた家電は、ゴミ屋敷に住む独居老人にも似た精神の不在を物質で補ったかに見える。後半、貧困に喘ぐ登場人物たちがあてにしていた家電を山口の息子が引き取りに来る。住人たちは一致団結してその場を取り繕い、家電をトラックに詰め込む。山口の息子が置いて行った心付けで取った寿司を囲み、コーポの玄関先で奇跡のようなさりげない宴会が始まる。常に精神が安定したかに見えた馬場ふみかが母(片岡礼子)と会った際に突然取り乱す辺りが地味ながらとにかく秀逸で私は今作を気に入った。コーポの住人たちの抑制の効いた演技がとにかく素晴らしく、中でも笹野高史のさりげない芝居には彼が21世紀に重宝される理由がわかった。
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