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ぼくの小さな恋人たち 4Kデジタルリマスター版のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.4
 少年時代のダニエル(マーティン・ローブ)はぺサックで祖母と暮らすやんちゃな男の子で、街に巡回して来るサーカスの一団に魅せられている。象の曲芸でも美女の空中ブランコでもなく、ダニエルは張り巡らされたガラスの破片の上に背中を落とす地味ながら過激な芸に魅了される。翌日、学校の仲間たちを草むらに集めて彼が披露するのは、ガラスの山に背中を落とす地味な芸の模倣である。然しながら特別な鍛錬を積んでいない彼はもう1人の友人にガラスを裏向きに変えるように用意周到に仕込むのだ。若い頃は目に飛び込む全ての物に魅了され、刺激される。そして彼は衝撃を受けた出来事をすぐに模倣しようとする。街には同世代の男女の遊び仲間がいて、木に登ってそこから飛び降りるという危険な遊びに魅せられる。だが大人の目が飛び込んできたところで子供たちは散り散りに逃げるのだが、飛び降りられなくなった高所恐怖症の子供だけが取り残される。ぺサック中等学校に1年通った後、ダニエルは母親と一緒に暮らすためにナルボンヌへと向かうのだが、母の愛を独り占めすることは出来なかった。傑作『ママと娼婦』から1年後に撮られた映画は、ジャン・ユスターシュの少年時代を描写したような半自伝的な作品である。

 母親にはスペイン人の彼氏がいるが、彼の協議離婚が成立していないため、母とダニエルとは極めて不安定な状況に置かれている。高校への進学を夢見た彼は学費その他諸々の経済的理由から、スペイン人の彼氏の兄弟のジョゼが営む二輪車販売店に徒弟として出されるのだ。ダニエルは普通の生活から徐々に脱落して行く。南仏での淡い思い出を今は噛み締めながら、然しながらダニエルに起こった性の目覚めは冒頭の聖体拝領の儀式にも明らかだ。勃起した男根を間を歩く少女に押し付けたダニエルの歪んだリビドーは、過激な瞬間を模倣することで現実へと落とし込まれる。サーカス一座の中でも背中をガラス瓶にこすりつける男に何らかのシンパシーを感じたダニエルは、ショッキングな体験をすぐに自分で模倣しようとする。列車の道中で偶然出会った高校生2人と女子高生とのディープキスが何よりもその所作となり、ナルボンヌへ渡った彼のイメージにはあの時の車中での高校生のディープキスが脳裏に焼き付いて離れない。母の庇護もない行き場のない場所に置かれた彼にとって映画館だけが心の拠り所であり、映画館の暗闇だけが自らの欲望のはけ口となる。アルバート・リューインの『パンドラ』上映時における心底ゾッとする様な描写は、思春期だけに許されたある種の通過儀礼足り得る。隣村に少女をナンパしに行く際の3歩後ろを歩くような後ろめたさも決して良いことのなかったナルボンヌ時代を素描する。

 少し年上のショッキングな人間の行動を模倣する人生。誰もが最初は見よう見まねで真似ながら、やがて自分だけのスタイルを確立して行く。地方に生まれ、ヌーヴェルヴァーグに憧れを抱きながら簡単には近付けない実人生の中でユスターシュは歪んだコンプレックスを抱えながらやがて自分だけの作風を確立して行く。『ママと娼婦』の後に作られた作品としてはごくごく地味に見える映画だが、今観るとぶっきらぼうなフェードアウトを含め、ある意味時代を先取りしていた。
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