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ナチ刑法175条/刑法175条のakiakaneのレビュー・感想・評価

ナチ刑法175条/刑法175条(1999年製作の映画)
3.4
「ナチス政権下の同性愛者の証言」と一口に言っても、その内容は様々だ。

同性愛者の聖地だったという1920年代のベルリンの様子や、どんな相手と恋をし愛を交わしたかを語る証言者の姿からは、やや軽薄に感じられるほど奔放で生き生きした若かりし頃が伺える。

一方で、強制収容所でさえ最下層扱いされ、凄惨な被害について「もう終わったことだ」「今更あの話をするのは簡単じゃない」と語る人がいる。
勇気を出して被害を打ち明けても「そんな話は聞きたくない」「昔の話を蒸し返すな」と二次加害された経験を語る人がいる。
初めて体験を語る機会となるも、93歳になってなお被害の恥辱と苦痛に涙を流し、声を詰まらせ語れなかった人がいる。

今は亡き彼らが語った内容だけでなく、口ごもり、終ぞ語れなかった姿そのものから性暴力が「魂の殺人」と言われる理由を再確認せざるを得なかった。

《余談》
①法律や制度の時系列での表示がなく、6人とも名前以外のプロフィールが表示されないため、「○○生まれで○○って言ってた人はどの人だっけ?これ何年くらいのドイツのどのあたりの話?」と一つひとつの証言と背景情報が個人に結び付かず、情報が散逸してしまった印象を受けた。
貴重な証言だからこそ、観客が当事者の語りに集中できるよう制作者が年表やナレーション、アニメーションで情報を整理する必要があったのでは。

②本作イントロダクションを読んだときから、ゲイ6人、レズビアン1人という証言者の比率に疑問があった。
強制収容所に送られたレズビアンの人数は記録上5人と、1万~1万5千人送られたゲイのそれとは桁違いだ。しかしこれは優遇措置ではなく、
男性が労働力や実験体として利用されたのと同様に、女性はその妊孕性を利用するために身体を残されたに過ぎない。それはすなわち産む機械、肉の袋扱いだ。
「レズビアンは矯正可能」「生殖機能が有用」だと言われ、レズビアン自体は禁止されず中絶が禁止になった裏にあったと容易く想像できる女性の「被害」の証言者はいない。
本作で唯一のレズビアンの逃亡の話だけでは、レズビアンの存在が取ってつけたおまけのように浮いてしまった印象を受けた。男女それぞれを別作にする、ないしは男性6人の証言だけで構成しても良かったのでは。

(字幕翻訳:川口隆夫)
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