Jun潤

身代わり忠臣蔵のJun潤のレビュー・感想・評価

身代わり忠臣蔵(2024年製作の映画)
3.9
2024.02.14

ムロツヨシ×永山瑛太
忠臣蔵やその元となった赤穂事件については全く知識が無く、江戸時代から様々な形で舞台や落語、小説、そして映画作品の題材として使われてきたのにどれにも全く触れたことがありません、お恥ずかしい話です。
しかも今作、赤穂事件を忠実に描くようなものではなく、コメディ寄りな感じな上、定説とは異なる歴史ロマンのような感じも予告からは見受けられます。
果たして初めて忠臣蔵に触れる人でも楽しめる作りに仕上がっているのか、不安も少し混じりつつ、鑑賞です。

江戸幕府が開かれおよそ100年、徳川綱吉が治める元禄の世。
お布施を恵むも誰からも貰えず道ゆく人に悪態をつく坊主の孝証は、犬に吠えられ橋から川へと落ちてしまう。
流れていった先で孝証を助けたのは、後に赤穂事件を起こす大石内蔵助だった。
ついに寝食に困った孝証が向かったのは、まさに赤穂事件の舞台となる吉良家、孝証は吉良上野介の弟だった。
門前払いされかけるも邸内に侵入した孝証だったが、寝かされたのは馬小屋、握り飯を女中の桔梗に恵んでもらっていた。
そんな時、江戸城・松之大廊下で浅野内匠頭が吉良を斬りつける。
その際吉良は背中に逃げ傷を追ってしまい、柳沢吉保の手によって吉良家にお取り潰しの危機に陥る。
そして吉良家家臣の斎藤宮内は、吉良家断絶を避けるため、怪我で動けない上野介の身代わりとして孝証を柳沢の前に差し出そうと画策する。
報酬の金に目が眩み身代わりを引き受け、上手く吉保を誤魔化せたと思ったのも束の間、上野介は傷(孝証の勘違いによる心臓圧迫)が原因で亡くなってしまう。
宮内は吉良家のために、孝証を本物の殿として上野介に成りすまさせる。
大金を手に入れたことで遊郭で夜通し遊んでいる最中、吉良は赤穂藩の存続か主君の仇討ちかの選択を迫られている内蔵助と再会する。
改めて事の顛末を聞いた吉良だったが、赤穂浪士にも命を無駄にしてほしくなく、討ち入りをされて吉良家の家臣が殺されるのも避けたかったが、吉保の命により郊外へ屋敷替えをさせられ、いよいよ討ち入りは目の前に迫っていた。
吉良家と赤穂藩、どちらの命も救いたい吉良は、内蔵助に対して一世一代の大芝居を提案する。
果たして、『忠臣蔵』の行方はー!?

ん〜惜しい!これは非常に惜しい!!
中盤までは主にムロツヨシの怪演によるコミカルさが満載で、それとは対照的に吉原の様子などの風俗考証が作品としてよくできていたため、シュールさも感じさせるコメディ振り切りな傑作の予感がしていました。
しかしそのコミカルなキャラクターやストーリーラインのまま忠臣蔵へと進んでいくのかと思いきや、急にシリアス要素満載な場面が続いて個人的には失速した印象。
東映お家芸のチャンバラ時代劇は観れたものの、もう少しテンポの良さか、中盤までのコミカルな雰囲気を維持して欲しかったところ。

演技についてはムロツヨシ一強でしたね。
孝証の残念な和尚から、上野介の横暴な感じ、時々魅せる真剣な顔つきと、色んな表情を今作で魅せてくれました。

さて、上述の通り忠臣蔵ものに初めて触れたわけですが、今作がちょうど良かったのではないかというのが正直なところ。
というのも、全く知らない僕でも忠臣蔵の構図は主の命を理不尽に奪われた赤穂浪士たちが忠義を果たす物語というのはなんとなく分かっていて、穿った見方かもしれませんが権力に屈しない市民側へのプロバガンダにも思えたり、忠義のために命を投げ打つこともまた美徳とする武士道精神満載な作品群なんだろうなというイメージでした。
しかし今作を観て、孝証というif要素ありきかもしれませんがやっぱり命あっての物種で、いくら江戸時代の人といえど忠義のため、家のためなら死ぬことも本望だというのが全体の総意ではなかったんじゃないかと改めて感じました。
それらを踏まえても、浅野内匠頭がキレやすかったり上野介が嫌味ったらしい憎まれ役だったり内蔵助が気弱なビビリだったりと、ちゃんと喧嘩両成敗にも因果応報にも受け取れるし、史実の通り事件まで運んだ上に、失われた命以外の生き残った人たちは幸せになれたんだろうなと感じられる結末でした。

しかし個人的にはやっぱり、終盤のラグビーシーンで若干コメディ要素を持ち直してくれたものの、赤穂浪士切腹で孝証が大切な友人と死に別れてしまうビターエンドには持っていって欲しくなかったところです。
ムロツヨシ同士のセリフの応酬やムロツヨシと林遣都によるSMプレイは一見の価値アリです。
Jun潤

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