こじらせ男子の白昼夢

身代わり忠臣蔵のこじらせ男子の白昼夢のネタバレレビュー・内容・結末

身代わり忠臣蔵(2024年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

致死量のムロツヨシを浴びてしまい、自分でもビックリするくらい泣き、引くほど笑いました。

全く新しいタイプの忠臣蔵で、ムロツヨシファンも、忠臣蔵ファンも、観て絶対に損はない快作です。思わずパンフレットと原作を買いました。

ストーリーの概略を説明しますと、
吉良上野介の執拗な嫌がらせに耐えかねた浅野内匠頭が、江戸城内で抜刀し吉良に斬りかかる。
当然、浅野は捕らえられて切腹。しかし、上野介も逃げる際に浅野の太刀で負傷しており、治療虚しく帰らぬ人に。
万が一、逃げて死んだと幕府にバレれば確実に吉良家は取り潰し。
そこで吉良家の家臣は、上野介に瓜二つな弟の孝証を身代わりに仕立て上げる。

この孝証が本当に良いキャラをしています。高貴な家柄のくせして、ちゃらんぽらんな遊び人。当然吉良家からは勘当同然の待遇。
しかし、無駄に器用で芸達者なため、路上パフォーマンスと投げ銭だけでギリ生計を立てちゃいます。何者なんだよ、お前は。
そんな「三文芝居の道化」である孝証が、のちに幕府をも騙す「千両役者」になる伏線回収が非常に綺麗でした。


いわばジョーカーな孝証と対をなす、エースな主人公こと大石内蔵助。
浅野内匠頭への忠義と、仇討ちに燃える仲間への想い。その一方で護るべき家族への愛。いずれかを取れば確実にいずれかを失う極限状態。観ている私の胃が痛くなる。
そんなストレスからか、大石は慣れない酒を呷り泥酔。酔った勢いで通りがかりの生臭坊主に絡むと、すっかり意気投合。そのまま遊郭で思い切り羽目を外して乱痴気騒ぎ。「俺たちズッ友だぜ!!」と固い絆で結ばれます。

が、その生臭坊主こそ孝証であり、孝証も相手が大石内蔵助とは全く気づかず。
そら、揃って同じピンクな嬢にイッたらマブダチにもなるのよ。まさに呉越同舟。舟というより風呂ですが。

そして、孝証は大石が何とか切腹せずに丸く収まる方法を探し、大石も何とか孝証が殺されずに済む方法を探します。

この孝証と大石のバディとしての熱さも本作の魅力の1つです。
何か大石だけひたすら難易度上がってねぇか?気のせいか?

「「どうやったらアイツを救えるんだ!!」」とお互いが真剣に考えた結果、行き着いた先は上野介身代わり作戦の完遂でした。

なんと孝証は「上野介が100%悪いし、これで大石が助かるなら良いだろ。」と自らの首を差し出すことを決意します。家臣達には痺れ毒を盛って動けなくし、その隙に赤穂浪士を邸宅にわざと招き入れ、大石に自分の首を取らせるという討ち入り大作戦。盛大な自作自演。

もちろん、そんなことを許せば吉良家は終わり。主君を護れなかった家臣は路頭に迷うことになります。
しかし、孝証は遊び人であるためこの辺りの倫理観が武士と根本的に違うのです。
孝証は「生きてさえいれば良い。」という、極めて近現代的な価値観で動いています。つまり、生き恥なんて概念は無いので家臣の武士達も生きてさえいれば良いのです。

そんな生きることを至上の目的とする男が、自分の命を親友のために捧げる。しかも親友自身の手で殺されるシチュエーション付き。冷静に考えると、ヤバい重さの鬱展開です。

が、ラストシーンは最高に笑えました。
この重さから大爆笑できるエンディング。まさに異次元の着地。
作者の脳味噌どうなってるの?と本気で思い原作を買ったのですが、このオチは映画オリジナルでした。いや、逆に映画オリジナルで良かったとすら思う。

忠臣蔵の新解釈として、バディものとして、是非是非ご覧になって欲しい作品です。これを劇場で観れたことは私の財産です。