ここにはいない。
婚約された次の日に突然失踪した"市子"という女性の話。テーマとしては｢ある男｣に近いのかな。でも、他のどの作品にも当てはまらない、唯一無二の独創性。映画を見て久々に落ち込んでしまった。プロポーズ時の喜びは偽りだったのか。彼女は、幸せになってはいけなかったのか。逃げなければならなかった、その理由とは。
想像を絶する過去を捨て、ようやく普通に生きていけると思ったのに。失踪事件をきっかけに、彼女と関わりを持った人々の話から徐々に浮き出てくる過去。だが本作は全編他人目線で描かれており、彼女の心境はこれっぽっちも分からない。だからこそ、この映画は苦しい。数少ない情報をかき集め、市子という人間を理解しようとするから、どうしようもなく辛くなる。人は選ぶだろうけど、とても上品で、杉咲花の代表作と語られるだろう作品だった。
