ノラネコの呑んで観るシネマ

市子のノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.6
三年間同棲している恋人からプロポーズされた翌日、なぜか逃げるように姿を消した市子。
彼女の行方を探す恋人の若葉竜也の捜索は、やがてある殺人事件と結びつく。
そして時代によって市子と月子と言う二つの名前を使い分ける女の、28年間に渡る驚くべき人生が紐解かれるのだ。
87年生まれの市子の半生は、そのままバブル時代とその後の失われた20年に重なる。
ある事情から、生まれながらにして公的なアイデンティティを失った彼女を、家族を襲った不幸がさらに追い込んでゆく。
気付いてみれば、いつに間にか状況は抜き差しならないところまで来てしまっているのだ。
破滅的な市子の人生は、日本社会が放置してきた様々な問題が絡んでいることが、徐々に浮き彫りになってくる。
戸田彬弘監督作では、「名前」以来のアイデンティティをモチーフにした作品だが、こちらは時代性もあってグッと深い。
ここまでドラマチックでなくても、彼女に近い境遇の人は決して少なくないはず。
もしかすると、私たちの身近にも“市子”はいるのかも知れないと思わされる。
タイトルロールを演じた杉咲花が圧倒的に素晴らしく、過酷過ぎる過去と複雑な葛藤を抱え、それでも小さな幸せを求める市子がスクリーンを支配する。
必見の力作である。
ブログ記事:
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