109mania

市子の109maniaのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.5
 法律や福祉といったセーフティネットからぬけ落ち、苦しみの中にいる人達。この映画はそういった人たちを描く側面がある。観ていて苦しくなるが、それも映画の魅力。私の好きなジャンルでもある。ただこの映画はそれだけにとどまらない奥深さがある。
 例えば、謎解きの要素。白骨化した遺体は誰なのか、その真相に迫るのももちろんそうだが、幸せの絶頂と言っても良いプロポーズの直後に、失踪しなければならなかった理由もまた、謎めいていた。
 そして、生きることへのエールの要素。誤解を恐れずに言えば、他人を命までも踏み台にしてでも生きようとする姿には、大きなエネルギーを感じることとなった。
 劇中で、市子が「悪魔やで」といった言葉を投げかけられるシーンがあるのだが、鑑賞後劇場を出た時に私も思った。「確かに悪魔だ」
 でも、悪魔になるには理由がある。悪魔になってでも生きようとする市子には、ある意味勇気づけられる。自己正当化や自己肯定のパワーはとてつもなく大きく、生命力にみなぎっていた。

 鑑賞後の疲労感は大きい。これは映画の熱量に比例する。この監督の作品は初めて観たのだが、今後見逃すまい。主役の二人も素晴らしかった。特に杉咲花にとっては、新たな代表作、転機となる作品になったではないか。
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