ハル

市子のハルのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.1
タイトルは名称のみ。
つまり、この作品の全ては『市子』を演じる杉咲花に掛かっており、彼女が魅せる表現者としての力が場を支配していた。
20代でこのレベル。
いったいどれだけのものを乗り越えれば、たどり着けるのだろう。
突如失踪した、市子のルーツをたどる旅路。
恋人役の義則(若葉竜也)は必死に市子の足取りを追い、謎に迫っていく。

本作、杉咲花が凄すぎてどうしても注目は集まるが、相手役を務めた若葉竜也もさすがだった!
圧巻の彼女に対し、堂々と芝居で渡り合う。
自然でいて、ときに感情を爆発させる義則。
繊細な役柄に思えたけど、難役に幾度もチャレンジし、結果を残してきた彼ならではのアプローチ。
その仕草、表情が心の琴線に触れてくる。
若葉竜也は邦画界に欠かせない俳優になったと思う。

そして…明かされていく市子の人生。
自身を存在させるために取った行動がたまたま成立してしまい、繰り返すことになる描写は“壮絶、かつ苦しい”のみ。
“◯◯日問題”については度々議論されているけれど…
制度や手続きの存在…日々の生活に追われた彼らが答えにたどり着くのは決して簡単ではなかった。セーフティーネットは最後の砦と言われているが、誰しもを拾い上げてくれるわけではない現実。
本来、人を守るためにある法律や戸籍についても深く考えさせられた。

終盤に流れる一つのニュース。
彼女の悲痛な思いが伝わり、「あぁもうこれしかないんだ、そう生きていくんだ…」と感情の体温が冷めていき、本音が語られる回想シーンの想いの儚さに気持ちは全て持っていかれる。

役者や構成、ストーリーに関しては文句無し。
そんな中、唯一気にかかったのは切り替えの多さ。
ルーツを描く部分と現在進行系の話が混じりあっていて、人によっては若干分かりづらく感じてしまう部分も。

とはいえ、今年のベスト邦画に推す方も多いであろう出来栄え。
『怪物』『月』『正欲』らと並び称される傑作に思えた。
邦画好きの方は是非劇場へ。
作品=杉咲花、強制的に世界観へ引きずり込まれてしまう、異次元の芝居力に酔いしれてほしい。
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