ねむろう

市子のねむろうのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2023新作_248


全部、流れてしまえ――


【簡単なあらすじ】
川辺市子は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則からプロポーズを受けた翌日に、忽然と姿を 消す。途方に暮れる長谷川の元に訪れたのは、市子を探しているという刑事・後藤。後藤は、長谷川の目の前に市子の 写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか。」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生...と、これまで 彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。そんな中、長谷川は市子が 置いていったカバンの底から一枚の写真を発見し、その裏に書かれた住所を訪ねることに。捜索を続けるうちに長谷川は、彼女が生きてき た壮絶な過去と真実を知ることになる。



【ここがいいね!】
観た直後から時間が経てば経つほど、自分が今どのような感情なのかがわからなくなるような、非常に不思議な感覚を覚える作品でした。
時系列をバラバラにしながら、ことの真実が後半に示されるわけですが、特に市子に深く関係する人であればあるほど、特別な感情を持ちながら生きてきたでしょうし、そして何より市子自身がどのような思いで生きて来たのか、そしてこの先もどのように生きていくのかとていうことに、深く思いを馳せてしまう作品でした。
いろんな人の口を通して語られる市子の人生を追体験するからこそ、彼女を必死に追いかけることしかできない、追いつくことも追い抜いて受け止めることもできないという感覚になるのだろうなと思いました。



【ここがう~ん……(私の勉強不足)】
『ある男』(2022)のような、別の人間として生きるというところにも似通っているところではありますが、今作では市子がどのような思いを持っていたのかというところが意図的に抜け落ちているところがポイントだと思います。
また、市子が妹・月子をどのように思っていたのかが全く描かれていないところも、非常に不気味であり、モヤモヤするところでもあり、それがいいところでもあり、一言では言い尽くせないないようでした。
月子の呼吸器を外して、命を奪うわけですが、その時、月子の目線で市子をベッドから見上げるショットがありましたが、市子が全くもっての無表情であるところが、やはりこの作品の奥深さというか、掴みどころのなさを表現しているなと感じます。



【ざっくり感想】
「人に歴史あり」という言葉がありますが、その「歴史」をひた隠しにしたい人も間違いなくこの世には存在して、もしかしたら私自身も、これまでの人生の中でそのような人と一緒にいたかもしれない。
また、さらにその人の人生を暴こうとしてしまった瞬間があるかもしれないと考えると、とても難しい時代なのだなと思います。
それに対して「無関心でいろ」という風になると、それはまた別の意味で違った問題が起きそうなこともあり、どんな時であっても、その人がその人であるという尊厳、その人が今生きている、今ここにいる、どこかにいるということは絶対に守らないといけないと強く思いました。


最後の方で、「車が川(海?)に沈んで、中から男女の遺体が発見されました」というニュースが流れていましたが、あれは「市子と長谷川」じゃないと認識しているのですが、実際どうなんでしょうかね……?
長谷川が全てを受け止めて、「事実婚」のようにこれまで通り二人で生きていてほしいと願っているのですが、「心中」という感じでもなかったように見えるので……。
舞台は、後日譚も描いているようで、気になります。
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