このレビューはネタバレを含みます
地元、阪奈トンネルががっつり出てきて嬉しかった。物語上ネガティブスポットだけど。
本作の見所は、何と言っても杉咲花の新境地。これに尽きる。無味無臭の国民的少女女優からの脱却、覚醒をみた。
小動物感が強いルックと、とつとつと喋るコテコテの関西弁はジョゼの池脇千鶴を思わせた。が、杉咲花の場合ネイティヴ関西弁ではないと思うので、その精度の高さにまず驚く。加えて、得体の知れぬ惹きつける雰囲気、濃厚ディープキス、静かな圧、魔性の色香、世界の全てを黒塗りにする漆黒の眼、、、。
これからも彼女にはドシドシこういった奥行きのある役柄を演じて欲しい。
お話は、苦しい。とにかく苦しい。
どこにでもある家族が、必死で家族を保とうとした先にあったのは破滅の末路。苦しすぎる。
中村ゆり演じる母の「ありがとうな」は、どうしようもなく残酷で重たすぎた。
そしてその後口ずさむ、虹が虹が。
幸せなあのとき、子供たちと歌っていたのだろう。諭すように問い掛けるように、きっと明日は良い天気と。そして今、全てが決定的に壊れた今、市子からの問い掛けを遮断する。虹が虹がと遮断する。それは決して訪れる事のない、かけがえのないあの日への逃避。
ただ、「限界やったんよ、幸せな時期もあってんで」とさらりと告白するのは解せん。限界なんて言葉を思わず吐いてしまった瞬間、きっと慟哭する。頭で思ってはいても、口からそれが出て認めてしまった瞬間、凄まじい感情の波に襲われてしまうように思うから。ここのシークエンスには演出不足を感じた。
月子だった頃の自分を清算し虹がかかった終幕後も、きっと市子には明るい未来なんて到底望めないと思った。
行き場のないやるせなさに、鑑賞中何度も溜め息をついた。隣の席の方、すみませんでした。
