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市子のkouのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
2.5
まずは杉咲花の演技が素晴らしく、ここまで嘘くさく無いリアリティを持っていることで、今作が忘れられない作品になった。本当に見事、冒頭のプロポーズの件で完全に持っていかれ、ケーキ屋での件は圧巻だった。

プロポーズの翌日失踪した市子。彼女が何者だったのか過去を追うミステリになっている。その中で壮絶な過去、存在しているのに存在せず、必死に自分の人生を生きようとする姿が描かれる。

展開も見事で、俳優達の演技も素晴らしいのだが、やはり市子の壮絶な過去の描き方があまりにも薄く、その事実に触れる事なく凄惨な事件を起こす。障害者を家族に持つ家庭を単に地獄と割り切るような、悲劇のネタにとってつけたような風にしか見えないのだ。

障害を持つ子の家庭の大変さ、それを作品に反映するのはいいが、それならやはりもっと描写が必要である。公的な介護サービス、支援団体の描写もない。なによりもただ悲劇的な対象としか描かれない当事者。差別を推進させる作品にすらなり得る事。やはり考えるほど、社会的な弱者への視点が疎かである作品であると思う。
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