脳みそ映画記録

市子の脳みそ映画記録のネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

 『市子』については公開をずっと楽しみにしていた映画です。

 最近の邦画は素敵なものが多く、この『市子』もそういう嗅覚が働いた映画です。

 突如失踪した市子という女を過去に遡りながら人物像を探っていく構成です。
結構時間が前後していくのでわからなくなった人はのパンフレット市子の年表を見てほしいです。

 劇中は冒頭の鼻歌を歌う市子の後ろ姿を除くほぼすべてが回想シーンです。市子と接した人物たちの回想にてピースを埋めていきます。
 全て観終わった後にあの市子の後ろ姿をみるとゾッとする。顔は映らない。どんな顔をして歩いているのだろうか。

 ゾッとするといえばパンフレットのデザイン。あのヘッドライトから目を覆っているあのシーンがパンフレットになっていて、視聴前に買ったときは何も思わなかったたのですが、観終わって、観ると怖っと思えるデザインでこういうのたまらないですね。

 行政って良くディスられていますが、皆さんが悪く言うほど日本の行政機関は無能ではありません。本当に。きっと適切に相談していれば、無戸籍にはならなかったのでしょうし、必要な支援は受けられたはずです。
 この話誰が悪いかというと、まずDV元夫はもちろん、ひとりで抱え込んだ母親が悪いのは間違いはないですが、結局は市子自身を含めて環境が複合的に悪いのでしょうね。

 ただ、戸籍の有無だけでこうなったのかというとそれも疑問です。「お前ら親子は悪魔だな」と言われてた通り、ファムファタール的側面を持ち合わせたキャラクターなのです。(このセリフを言い放った小泉はクズでしたが)

 市子自身は唯一幸せだったあの瞬間の写真を大切にしている人間的な面もあれば同時に自身のためなら非道な手段も選ぶ面もある。

 市子の腹の中は明かされないし、わからないのですよ。市子視点のパートは表情すらわかりませんよね。自惚れてわかった気になるのは「俺が守るからと」ヒロイズムに駆られた北くんと一緒なんだなというのが最後突き放されるように提示される。

 今年公開された『アンダーカレント』でもありましたが(あちらも突然の失踪話でしたね‥)、人を解るってどのようなことなんでしょうね。本当にわかることなんてないのに。
 その点で言えば回想話で真実を構築していくのは『羅生門』にもにてますね。真実は結局、本人しか(すら)わからないんでしょうね。

 本作は杉咲花が演じていますが、この人めちゃくちゃすごいなと思いました。インタビュー記事を読むと演じている自身も感情がわからなくなったそうです。良く考えれば人間なんてその時々で、場所で、相手で容易に気持ちが左右されるものです。市子というキャラクター自身も感情がわからなかったというのも往々にしてあると思います。なのでその良くわからなくなっている感情自体があの演技を生んだのではと思います。

 ストーリーにしろ演技にしろ演出にしろ2023年にみれて良かった映画のひとつです。