とりん

市子のとりんのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
4.2
2023年98本目(映画館39本目)

全てが重くのしかかったし、ズブズブと深く刺さった。観終わった後、言葉に表せない感情がつきまとった。
戸籍を持たない人がいるというのは聞いたりはしたことあるけど、こうしてそういう人のことを描くのを見ると胸が締め付けられる。
しかも市子の環境はあまりにも過酷で残酷な運命と現実がある。
市子がしたことは世間的には決して許されることではないけど、それでも市子には救われて欲しいという気持ちしかない。
市子が居なくなってから、市子の過去が関わった人たちの視点から少しずつ明かされていく。なぜ市子という人は存在しないのか、市子という人となりが垣間見えるたびにグッと心を掴まれるような感覚だった。
決して全てが明かされるというわけではないし、細かい説明や描写がないところもある。でも節々から読み取れる情報でもあまりにも辛い現実がのしかかる。

ただ普通に生きたかったただそれだけなのに、幸せや希望が見えると落ちていく。あまりにも残酷だ。
だから踏み入れてはいけない領域にまで踏み込んでしまうのだろう。
ちゃんとした愛の形も知らず、男にふらつく母の姿を見てきたし、家に入り浸る男からもきっといろいろとされて我慢してきたのだろう。でも母とは少なからず愛で繋がってたのも伺えるシーンはある。
そして童謡でも歌われる「にじ」を鼻歌で歌歌うシーンが何回かあるけど、これが印象的すぎる。頭から離れなくなる。

市子演じた杉咲花の演技も凄かったし、長谷川演じた若葉竜也も良かった。自分が婚約しようとした相手があんな境遇だったら自分は全て受け止め切れる気がしない。
これも実際に起こり得る話なんだろう。きっと日本のどこかである話。
自分が育った家庭は平凡だけど幸せな家庭だったと思うからこういう話とは無縁なのだけど、実際にあるだろうこういう世界や現実を知れるというのはフィクションあるとはいえ映画って大事だなと改めて思う。

過去の話とかになる時にいつの話か年月は出るけど、時系列が入り混じってくると少し混乱してくる。いろんなことがわかった上でもう一度整理しで観たいところ。
序盤の市子が幸せそうな姿が映し出されるだけでグッときたけど、全てわかった上で最後にもう一度同じシーンが流れた時に胸が張り裂けそうなくらいだったし、自然と涙が出てきた。今思い出しても泣けてくる。
とりん

とりん