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市子のmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

母が元夫との離婚後300日以内に子を出産した場合、その子は元夫の子と推定される。その嫡出推定は1898(明治31)年施行の民法で定められたそうだが、今も残っているというのがまず驚き。こうしたケースにおいては、DV男だったりする元夫と再び連絡を取ることをためらって母親が出生届を出さない事が多いのだそうで、そうすると、その子は戸籍に記載されず、学校にも行けず、ロクな仕事にもありつけなくなる。

原作を監督自身の舞台戯曲「川辺市子のために」に持つ映画「市子」の場合、無戸籍児の姉・市子が、筋ジストロフィーで身体が弱っていく(知的障害も抱えている)妹・月子に替わって、月子として学校に通うという設定になっている。過酷な障害介護、昼間から酒を飲んでいる母親の男、その上自分が一体誰なのかというアイデンティティの問題まで重ね合わされて、とにかく救いが見えない。

そんな市子の人生にも希望が微かに覗く瞬間がないではないが、ひとたびするとそれも目の前から消えていってしまう。中村ゆり(またしても水商売の魔性)演じる市子の母が「幸せだった時もあったのよ」と泣きながらに手にしていたあの笑顔の家族写真が、映画における唯一の救いだった。

市子の亡霊のような佇まいは印象的だが、恐らくは中村ゆりの娘役ということも強く意識にあるのだろう、魔性のオーラさえ発していた。市子は妹を殺し、母の男を殺し、さらには高校の同級生+1まで崖から落としたことまで暗示されるので、かなりの危険人物とも言えそうなものだが、それでも凶悪というよりは可哀想としか思えず、そこに杉咲花の力量を見た気がする。

映画は童謡「虹」のハミングにて締め括られる(オープニングシーンと同じ)が、あまりの悲劇の果てに心を壊してしまう(ようにも見える)点では「母なる証明」のラストシーンに重なるように感じた。
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