TwinYorks

市子のTwinYorksのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

アマプラに来たので見ました。
前評判も良かったので。

うーん、杉咲花の演技力が高い評価を得たのはわかるけど、映画は総合芸術なので、一人の好演ですべてのクオリティが決まるわけではなく、むしろ全体の中にあってはそれが浮いて見えてさえしまうのです。
恋人から結婚を申し込まれた市子が消えた理由がこの映画のキモになるわけだけど、「介護苦で殺人を犯したから」「無戸籍ゆえに結婚できないから」というのは、それこそ重厚な韓国映画など見慣れた人間からすれば、「あ〜、そういう感じね」ってくらいで特別な驚きをもたらしはしない。
こちらもどうしてそんなに引いて見てしまうか考えてみたのだが、「つらい状況」の設定がまずあって、そこに生きているはずのキャラクターに、どうも血が通っている感じがしないのだ。それは杉咲花がダウナー気味な演技をしているとかそういう話じゃなくて、なんだか、みんなが台本に書かれた設定を演じているだけで、その世界がそこにあるという温度が感じられないのだ。
そう感じさせる一因に(日本映画の悪いところだが)全体的にセリフが説明的だということだろう。たとえばケーキを何度か食べてもらっている相手に「私、パティシエになるのが夢やねん」と"今さら"言うのは明らかな説明台詞であり、醒めてしまうのである。
それに、関西弁が全般的にどうも不自然。特に北君役(森永悠希)はその妙な関西弁もあいまってか、焦燥感を表現したいはずの演技のすべてが空回っていた。
若葉竜也は非常に好きな俳優だが、これまでのどこか弱々しいイメージから、男らしさが加わった感じがする。ただ、本作では市子というキャラに付随した引き立て役でしかなく(最後の急ぎ足のふたりのラブラブシーンとかね笑)、あまり見どころがあったとは言えない。

それでも3.5以上をつけたのは、日本映画市場にこうした(少なくとも制作姿勢としては真摯な)人間ドラマの作品がもっと増えてほしいから。監督が原作も演出もやるという韓国映画の伝統的なスタイルがぜひ日本でも普及してほしいのだ。
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