ぴんゆか

市子のぴんゆかのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
2.8
話題になっていたので前情報無しで鑑賞。
花ちゃん、またこういう役なんだなーと思いつつ(新作の映画でも被虐待児のような立場に見える)、でも何度でも頼みたくなるほどの唸らせられる演技だと感じた。目の奥が死んでいるとはまさしく今作の市子にふさわしい。

戸籍が無い人々は日常生活で出会うことがなく、スポットライトが当たらないだけで世の中には想像以上に存在するのだろう。それこそ作中のようにDV行為のあるパートナーから身を守る為に行動を起こしづらいなどという状況は行政の問題である。

母親役である石田ゆりが昼間から薄暗い団地の一室で倒れるように寝ているシーンはゾッとするほどリアルだった。職業柄奇妙に派手な服を纏い、かつ髪には生活感が滲み出るさまもまた本物。

一軍では無いオタク的ポジションの人間が誰かに心酔しすぎるあまり、狂信的な行動をとるのもまた教科書通りだなと思った。
ただまあ自分の見られたく無い行動を見られてしまったのはあるにしろ、彼をとことん都合いいように使い、絶命させることも厭わない市子は残念ながら彼女の周囲にいた大人のようになっている。

今作で市子の境遇にいまいち同情しきれないのは結局こういったところだと思う。哀れな境遇の者は可哀想なままでいろとは思ってもいないが、主人公は哀れすぎる境遇の中、恋人をのぞく他人をそういう目にあわせていい、自分がうまく生きる為の駒としか思っていないような節がある。
戸籍の問題なのかもしれないが、ケーキ屋を友達と一緒に開くという夢を持ちながら気づいたらすっかり忘れたように全然違う生活を送っていたのも、自分の拠り所を探し、その場その場で別の何かが見つかったり飽きたらあっさり姿を消してしまう癖のように見える。(家庭環境が不安定だった子供は人間関係も短期的になりがちではあるが)

しかしながら助けを必要としている人たちが助けたいと思っている側にとって必ずしも清廉、純粋潔白に映らないのはとても現実的で、しかと注視すべき点であると思う。苦難をずっと生き続ける人間が普通の精神状態でないのはよく考えれば当然なのだが、支援が支援する側の偽善であってはいけない以上、こういった状況もよく理解する必要があると思う。

ちなみに、綺麗な顔だけれど垢抜けないオタクの役、メイクでダサダサにした瀬戸康史だと思っていてエンドロール見たら全然違った。
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