かりんとう

市子のかりんとうのレビュー・感想・評価

市子(2023年製作の映画)
3.0
嘘には嘘でしか言い訳できない。

この手の映画でいうと、「ある男」「嘘を愛する女」なんかが浮かぶが、まぁ一様に暗く重たい映画なのよね。
これらはやむにやまれぬ事情でみな身元を偽らなければならない人間たちの話だが、この「市子」においてはその描写とは対象的に、あまり同情的になれなかった。
それは、市子が「純真無垢で受動的なか弱い女性」ではないからだ。
むしろかなり強かで計算高いほうだと思う。
そしてそんな女性ならば彼女の生き方はここまで悲惨にならずに済んだと思う。だから物語に整合性を感じないのだ。

不器用で不運だったことには同情の余地はあるが、それでも無駄な殺人に手を染める必要があったのだろうかという疑問が残る。

劇中で詳細は語られないが、文字通り命を賭して自分を守ろうとしてくれた男のことを、自らのメリットデメリットという判断基準だけで闇に葬っているのは全く共感できない。
その後は勝手に十字架を背負った気になって自らの人生を悲観して老いさらばえていくのだろうと想像がつく。

この映画に共感する人々はきっと、劇中に出てくる市子を守ってあげたい!と思う男性陣と同じ心境なんだろうな。

杉咲花さんの演技はさすがお墨付き。
逆に言うと、主演が彼女じゃなければ最後まで視聴できた自信がない。
憂いも狂気も幸福も、僅かな表情だけで表現できる類まれな女優さんである。