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市子のyaekoのネタバレレビュー・内容・結末

市子(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます


ふとニュースで見聞きしても、情報の波の中にただ流されていくだけだった無戸籍という問題。それがわたしの前に初めて姿形を伴って、目の前に現れたような感覚。

生きているのに、生きていないって、確かに今ここにいることに間違いないのに、どうして?
紙の上の問題が、実体のある存在さえも揺るがすの?

生きたい、幸せになりたいという当たり前の願いが、悲しい結末を引き起こしていく。
彼女の中に、悪意とかなんてなくて、本当にただ普通に生きていきたいだけという、純粋ささえ感じてしまった。それはわたしの錯覚なのかな。
絶対にこんなふうに生きたい訳じゃないだろうにって。

あれだけ大事に守って来た自分の名前を、彼女は放り出してしまったから、ここから先は、もう。
市子と、長谷川くんがもう一度出会ってくれたらと思う。幸せになって欲しいと思う。抱きしめてあげて欲しいと思う。
一度しかない人生だからこそ、過去に捕まって飲み込まれないように、どうか優しい形で生きて欲しい。彼女はもう何度も沈みかけているけど、何度も浮かび上がって来たのだから。

それにしても杉咲花ちゃんは本当に、こういう役をやった時の人の心を底の方から揺さぶる力が、ものすごい。『湯を沸かすほどの熱い愛』で初めて観た時の衝撃を思い出した。
エンタメ的な映画も良いけど、彼女の本領はこういう、ヒューマンドラマのような場で発揮されると思う。本当に本当にすごい。
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