KnightsofOdessa

ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

4.0
[居残り者たちが見つけた道] 80点

アレクサンダー・ペイン長編八作目。実は初めて。1970年、ニューイングランドの寄宿学校バートン・アカデミーに勤める世界史教師ポール・ハナムはその厳格さと融通の利かなさによって生徒たちからだけではなく同僚からも嫌われていた。クリスマスを目前に控えた冬休み、事情があって帰省できない生徒たちの監督を命じられたポールは、休暇にも関わらず運動と勉強を強要して更に生徒から嫌われる。あるタイミングで、皮肉屋のアンガス以外の生徒が居なくなってしまい、学校には息子を戦地で亡くしたばかりの食堂管理者メアリーの三人だけになってしまう(清掃員ダニーを含めると四人だがあまり画面には登場しない)。母親の再婚相手との新婚旅行に置いていかれ、今度問題を起こすと士官学校に捨てられるというアンガスの、それでもプチ非行と皮肉は止まらないという身の守り方に涙が出そうだった。大人は誰も信じてないというアンガスに対して、子供は誰も信じてなさそうなポールの子供っぷりも興味深く、子供を亡くしたメアリーの存在は二人のガキを遠くから見つめる母親のようにも見えてくる。ポールはキケロの名言として"我々は自分たちだけのために生まれてきたのではない"という言葉を引用するが、これが本作品のテーマなのだろう。三人は互いに、それぞれが苦しんでいた壁への解決策を教え合い、関係性も苦しみも少しずつ雪融けを迎える。ポールはその他にも様々な知識を語るが、それもまたアンガスと似た武装の一つであり、"人間の経験に真新しいものはない、今を知るために歴史を学ばねばならない"と何十年も教えてきたポールにも、歴史かた学ぶべきことがあったのだと優しく教えてくれる。ペインは初めてだが、こんな繊細で優しい映画を撮るんだな。
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