なべ

エクソシスト 信じる者のなべのレビュー・感想・評価

エクソシスト 信じる者(2023年製作の映画)
3.8
 めっちゃんこ叩かれてるから、目一杯ハードル下げて観たんだけど、なんのなんの。ちっとも悪くないじゃん。オリジナルへのリスペクトが素晴らしい上、エンタメホラーに走らない自制心も大したものだ。
 何よりちゃんとオカルト映画だったのがうれしい。怖くはなかったけど、バチカンのエクソシストより100倍エクソシストしてた。
 いつおもしろくなくなるんだろうとひやひやしながら観てたんだけど…うむ、今のところおもしろいな…あれ、まだおもしろいぞ…えーどうしよう、ずっとおもしろいんだけど!とおもしろさが不安になるくらい、いい意味で裏切られた。
 そりゃ、オリジナルのエクソシストには及ばないんだけど、そんなのは当たり前。いま、名匠フリードキンに勝てる監督などいないし、そもそもあんなスパルタな演出が許された頃とは時代が違う。
 でもね、デヴィット・ゴードン・グリーンはとても誠実に、真摯に取り組んでたよ。どう撮ればエクソシストになるんだろう、どう表現したらエクソシストに見えるんだろうと、かなり試行錯誤のあとが見えたもん。突き放したようなカットの割り方もそうだし、エッジィな編集の切れ味も、警察での医療行為の不快感なんかもかなりシビアに表現できてた。悪目立ちしない地味な俳優の起用もそうだよな。
 願わくば、クリスが尋ねて来たときに、カラス神父の悪口を言って欲しかったんだけどな。「信仰を失ったヘボ神父なら今も一緒にいるぜ!この娘をおかずにマスかいてるわ」みたいなさ。観るものにとびきりの嫌悪感を抱かせて欲しかった。十字架を手に取ったときは、あ!もしかしてと思ったんだけど、股間に突き立てるなんてショッキングなことはなかった。代わりに目を抉り出してたけどね。
 少女たちの容貌はリーガンみたくなってたけど、怖くはなかった。痛みも感じなかったし、かわいそうにも思わなかった。そのあたりはやはり、それまで積み上げてきたリアリティの差なんじゃないかな。

 さすがに悪魔祓いの儀式に入ってからは、トッピング全部乗せをぶちまけたみたいなことになっちゃったけど、これはブラムハウス(あるいはモーガンクリーク)からの注文なのかもしれない。だってそれまでの抑えた感じとチグハグな感じがしたから。
 日程をズラして、牧師、呪い師、お隣さん、神父とアップデートしていけばよかったのに。それまでがよかっただけに、最後が安っぽいホラーになったのはほんと残念。
 もしかしたらコンプライアンスの観点から、一神教が多神教を否定するのはいかがなものかって配慮が働いたのかな。悪魔に対して、もはやキリスト教こそが正義と言えなくなった宗教観が反映されての全部乗せ? だからカソリックの神父だけじゃなく、ご近所さんや、牧師、まじない師なんかも一緒に祓うのか。
 うーん、確かに宗教起点の対立は世界を混乱に陥れてるけど、別にそんなところで気を配って欲しくなかったな。その手の軋轢を避けてこういう描写になったのだとしたらちょっと萎える。
 仮にそうだとしたら、信仰とは何か、宗教とは何かってとこまで切り込むべき。なんなら宗教こそが世界を分断しているって視点でもよかった。そしたら「信じるもの」ってタイトルがもっと響いたはず。
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