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悪は存在しないのritsukoのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.3
3年前の誕生日、長野へ朝5時に夜行バスで辿り着いた。その日は少し雨が降っており、朝の山は霧に覆われていた。「悪は存在しない」を観終わって、この日の記憶と勝手に結びついた気がして嬉しかった。今日は雑踏の渋谷の中で映画を観る。鹿もいない。真逆である地元と今の都会での生活を描いてくれたような気がして、わたしの物語のひとつにもなった。
冒頭は会話がない分、少し眠りそうになったけれど後半にかけて引き算された冒頭の静寂で落ち着いた自然・森の中のことを特に思い出しながら観ていた。
濱口監督は、会話劇が特に魅力的で「偶然と想像」につづくような笑いもあるシーンにはちょっと和んだ。
106分じゃ物足りないけれど、石橋英子さんの音楽からはじまったこの作品はとても実験的且つ自由で、プロながらも〝遊ぶ〟という楽しさを忘れずに挑戦する様はクリエイターの手本のようだった。守りに入らずに、常に試すこと。遊ぶこと。この作品の続きがもっと観たいけれど、きっとまた濱口監督は3時間以上の大作をつくってくれるに違いない。
あらゆる角度から楽しませてくれて、わたしは現代この人の新作を映画館で堪能できることは、幸福なんだろうな。これからも作品がたのしみです。
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