「悪は存在しない」というタイトルは現代人に対する免罪符的な役割を果たしている気がする。
事象として描かれるバランスの危うさ。その均衡が崩れたラストの切れ味に唸る。黒沢清的な不穏さ。
ここ日本で強気なまでのロングショットの美しさに惚れ惚れする。
移動を伴う車中からのショットがそのままフレーミングを決め見事に人物をおさめる客観とも主観ともとれるショットのきまりっぷりよ。
手負いの鹿は人を襲う。ということは？と思わずにはいられない。そもそも親子の発する声がよすぎる。神聖なる何か。
対比的に俗っぽさの描かれ方もほどよかった。
制作過程からすると必然かもしれないが、濱口映画において初めてテーマや主語の選び方に変化を感じた。これはこれで素晴らしいと思うし新たなフェーズに突入した感。
