コウ

悪は存在しないのコウのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

『悪は存在しない』
タイトルからするに 鑑賞前に想像してたのは 人に対する多面的な見え方を前提にした人間愛を提示した作品だった
でも実際は人の中の『悪』の存在の有無やそれに対する見解を視聴者自身に投げかけている作品だった

作中の人物は皆 社会の中で求めらる自身の立場や役割を理解している
彼らの行動は彼らと関わる人たちの立場によって 善くも悪くも映る
ただ 他者に対する根源的な悪意は存在していない(あるいは彼ら自身が意識していない)

また その一方で 彼らが役割を演じる過程での 振舞や発言が 巡り巡って誰かを犠牲にしているように思えた

象徴的なのが 高橋とタクミの鹿を巡る車中での対話だった
高橋は 地方回帰に漠然とした期待があり 少しでも街のことを理解しようと真摯に取り組んでいる
けれども 結局のところ 街のことや自然のこと等 何一つとして理解していないというディスコミュニケーションが生じていて 結果的に他者への痛みに鈍感になっている

最後のシーンの解釈は難解だけれども タクミが娘の父親として 高橋の存在を拒絶せざるを得なかったことは
人は他人を犠牲にしなければ生きていけないことのメタファーのように思えた

タクミと親鹿の間にはあの時何らかのやり取りがあった
そしてそれはタクミの娘と高橋とを天秤にかけるもののように思えた

高橋に対するタクミの感情に悪意は無く 一見すると高橋はあまりにも理不尽な仕打ちを受けたように思える

ただ 立場の異なる人たちの行動が巡りに巡って もはや取り返しのつかないようになってしまうと 誰かが犠牲にならざるを得なくてあのシーンに繋がったのだとおもった

ロジカルな部分と感傷的な部分が複雑に絡みあった作品で 感想を言語化するのが難しい
是非もう一度鑑賞したい
コウ

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