いがらむ

悪は存在しないのいがらむのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
冒頭の「EVIL DOES NOT EXIST」の青と赤のゴシック体がゴダールというか、ザジフィルムズ的な意匠で、それに続く叙情が過ぎる石橋英子の音楽と、90度真上を仰ぎ見るような枯れ木を移動ショットで捉える、この冒頭がワクワクするが、少し自分がこの映画を愛せるか不安になる。薪を割る男を割られる薪のアングルから撮るショットや、ワサビを見つけた時のショットなど、「摘まれる視点」からのショットが主題を表しているという野暮は言わないが、やはり濱口竜介の映画は人間と人間がメカニカルに言葉を交わして積もる不気味な時間の澱、それが溢れ出した時に立ち現れるあの情動ではないだろうか(最後の一滴を誰が注ぐのか、というジェンガ的なスリルもある)。少々精霊的な、暗示的な描写、つまり主題主義的な描写がトゥーマッチだった気がするのは、企画の突端がインストゥルメンタルミュージックという抽象表現だから、だろうか。濱口的な登場人物から唯一自由なはずの芸能事務所のマネージャー、高橋の存在が奇妙な軽さを物語に加えていて、まさにこの映画のテーマである「バランス」を絶妙なものにしていた。評価がとても難しい一作。でも、「ハッピーアワー」のあの人たちにスクリーンで再会できたのは喜びでしかない。ありがとうございます
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