Yutaka

悪は存在しないのYutakaのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.7
凄い。面白すぎます。石橋英子の美しい劇伴と木々に遮られる空を映す移動ショットからゆっくりゆっくりと始まる本作。序盤は田舎の人間の一見牧歌的な生活ルーティンをじっくりと見せていき、ウトウトしてしまいそうな位アンビエンスな心地良さがある一方で、主人公を捉えるショットが遠景から近づくと劇伴がブツ切られたりと、どこか不穏な雰囲気も醸成されていく。
物語が一気に動くのは中盤のグランピング事業が村に参入してくる所からで、ここからの展開が抜群に面白い。村人と営業社員の会話に宿ることばの違いがまず面白いし、そこからの視点の転換も自分がついついしてしまう邪推に気付かされるミスリードが上手い。
上京1年目のカルチャーどっぷり社会人には響くものがあるなぁと2人の車中での会話を聞いててしみじみとしていたが、ラストの展開には脳天をぶち抜かれた。"都市部と地方間の断絶"というシンプルな現代社会風刺だけには収まらないのが濱口竜介。よくよく振り返ってみると、モチーフは映画中に散らばっていたし、人物の発言や行動にも幾つもの伏線があった。それまでの理性的なフォーミュラとは異なり、平衡を保つ為の野性的な行動が発露してしまうラスト。映画すぎてゾクゾクした。
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