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悪は存在しないの708のネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

今日の時点で東京ではミニシアター2館でしか上映されてないので、多くの人が集まっていて朝から満席でした。著名なスター俳優の起用もなく、タイパタイパうるさいこの時代においての長回し、おまけに小規模上映という、ある意味での濱口竜介監督の攻めな姿勢を含めて心を打たれました。

「やりすぎたらバランスが壊れる」

すべてはその台詞に尽きると思います。自然と人間、あるいは人と人など、すべての物事はバランスで成り立っていて、その中にはかろうじて危ういバランスで成り立っている(あるいは、成り立たせている)ものもあるんですよね。崩れないポイントを見極めながら成り立たせることは大切で、ちょっとでもやりすぎるとそれが壊れてしまうこともあります。森の中をひとりで歩いて帰宅したり遊んだりする花も、ある意味バランスが成り立ってこそ、無事に帰宅できるんだと思います。

のどかな田舎町へと都会から移住してきた人がいたとき、そこに住んでいる人たちは移住者の様子をうかがい、移住者もその場所や人たちの様子をうかがいながら、ちょっとずつ程よいバランスを見つけて馴染んでいくわけだから、横暴な押しつけとしか思えないグランピング場の建設計画は、バランス以前の問題です。対話はバランスを見極め、調整するためのもの。対話ができない人とはバランスなんて取れるはずがないんです。

グランピング場を運営する芸能事務所で働く高橋と黛も、社内の任務を全うしようとしながらも、崩れかけた自分の中のバランスを死守しようとしていることが、車内でのふたりの会話から垣間見えました。どこかぎこちなくも微笑ましい対話によって、ふたりのバランスや各々個人の中のバランスを見つけ出すきっかけになったようにも思えました。あの長回しのシーンの自然なリアルさが凄くよかったです。

ラストの解釈は観る人それぞれだと思います。僕も僕なりの解釈がありますが、ここでは書きません。人それぞれでいいと思うからです。

説明会のシーンで声のみ聞こえたのが、東出昌大じゃないかということがちょっとした話題になっているようです。まったくクレジットはされていないので、カメオ出演だとは思いますが、今彼はマタギとしても生活しているということからも、劇中で2発聞こえた銃声も東出くん扮する猟師(もちろん姿は現さず)が撃ったんじゃないかという想像に繋がるのも納得。もう一度観て、声を確認したくなりました。

静かな衝撃が走る作品でした。
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