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悪は存在しないのkumamurakamiのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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人によってバランスが崩壊し暴力装置のスイッチが押される、自然を描きながら人為の爆発の中に飲まれる、色々な意味で黒沢清「カリスマ」のカバーに期せずしてなってしまっているところが興味深い。

権力に争い俺がお前がと言った直接的なところにはおさまらず、もっと人間的なところでドラマを起こして、不気味で不可解な「闘争」へ向かっていくという現代性。カリスマより20年ほどが経過した現在の視点の自然と人間の立ち方があるんだというところはステートメントとして意義深かったように思うが、今までの作劇と大きく異なりながら「奇妙さ」に落ち着いていくのはなんだか古臭くて濱口竜介らしくないのでは?と思ってしまった。

執拗に人物を追いかけ回す編集、異物感のあるカメラアングルはもはや味みたいなものになっていて、ズリぃなとまで思ってしまう。これ事故かな?と思ったら車の後ろにカメラ着いていた、とか。カメラの異物感は今までで1番意識されているのかなと感じた。

これでもって、「悪は存在しない」というタイトルと主題であるというところは少々、というかやっぱり濱口竜介は映画ヤクザすぎるところがあるなと感じた。人の善性でもって、理性で対抗していけ、という総合的なラストシーンは、些か映画の暴力喚起的な素質に悪ノリしながらやっているところはある。物語の強さや映画のサブリミナル性を「わかってやってる」のだから、この物語に対して永遠にすっとぼけ続けているのだろう。「この作品は偶然の産物です」みたいな言い方には一応騙されないように気を付けておきたい。
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