ENDO

悪は存在しないのENDOのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.2
完全に言行一致している巧の前で、現代人の我々は虚しい言葉を放っては無力であることを実感して立ちずさむしかない。水汲み、力強い薪割りの労働時間を丁寧に映し出すカメラ。アケルマン『ジャンヌ・ディルマン〜』のようにその労働の仕草を洩らさずに捉える。さらに陸わさびと車のリアウィンドウ視点に見つめ返され、娘と森を歩むドリーの反復。派遣された2人の会社員をまさかこんなに好きになるなんて。あまりに我々と地続きの会社員。丸太のように理不尽な仮初の労働は切断される。あっという間の心変わり。これは濱口流ダグラス ・サーク演出。ロメール 『レネットとミラベル/四つの冒険』第1話の「青の時間」を彷彿とさせる青い画面。娘と父は対等であり、自然に身を委ねる彼女の選択を阻害しようとする人物をチョークスリーパーで食い止める。ワイズマンの映画のように会話を信じている説明会の応酬。理を理として何の衒いもなく伝達せよ。それを裏切っては人間はどんどん虚無になってしまう。自分が自分としてあるために。巧は人間関係を切断することで媒介者となる。そこに善悪の判断はそもそも介在できない。
ENDO

ENDO