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悪は存在しないのemuのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

あまりにも静謐で美しくて恐ろしい。冬の木々たちを見上げて進んでいくオープニングショットからずっと引き込まれて、見終わった後も、心はどこかあのスクリーンの林の中に置いてきてしまったかのようにふわふわとしている。流れる水の音、鳥の囀り、薪割りの音、木の棘、鹿たち。幻想的な音楽や森の音は聖歌のようでもあり、ときに不穏さを籠っている。突然切れる音楽、時折聞こえる銃声、画面が切り替わる、ハッと息を潜める。自然は悪意をもたない。花も巧も、ただそこにいる自然の在り方を受け入れている。でも自然は永遠ではないから、人間の利益によって姿形は一瞬で失われてしまう。歩み寄る事、対話を重ねる事、そのどちらもおざなりになってしまう身勝手さ。何かを獲得するとき、何かが喪失する。私たちはその分岐点にいる。ラスト、思い返しても震えてしまう。私はとても好きだ。
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