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悪は存在しないのyadokariのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

「悪は存在しない」というタイトルから親鸞の「悪人正機説」を連想した映画だった。それは自然の描写力が和歌のように感じたのであった。木々の梢や鹿の鳴き声や月の姿。それらはまさに西行の和歌であるような(ちょうど西行に取り憑かれていたからかもしれない)。映像が和歌的な世界観であるというのは、ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』のミニマルな世界観と似ているが、それを道徳という小さな共同体の世界ではなく自然という大きな共同体の滅びの姿として描いたのかなと思うのである。

まったく見事としか言いようがないのだ。鹿を撃つ銃声とか、見えない部分の映像かな。鹿の声とか(俳句の季語である)。『ディア・ハンター』の裏側の世界なんだと思うが鹿が人間を襲わないと言い張る主人公が、最後は人間を襲ってしまう野生というものなのかとも思った。人間の欲望で作られていく映画なのだが、逆説的に「悪人正機説」になっていく世界観なのかと思った。
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