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悪は存在しないのflyoneのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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真っ白な空を背後に生い茂る枝葉を見上げる。時折クレジットが挿入されるも、画面は前進移動しつつ、じっと白い空を背景とする枝葉を見つめ続けている。やがて何者かの吐息が聞こえ始めたかと思うと、ひとりの少女の横顔を画面は収める。少女が再び歩き出すと、滑らかに背後からのロングショットに画面は移行し、少女の足取りを捉えることになる。これらのショットは、自然の雄大さも、その中における人間の矮小さも捉えてはおらず、黒髪をなびかせニット帽を被る少女の存在感を画面にゆき渡らせる。
続くショットではやはり枝葉ごしに何者かを捉えている。チェーンソーの音が響いており、キャメラが横移動すると、丸太を切るやはりニット帽を被った男の姿を認めることができる。やがて、この男女がどうやら親子らしいことをわれわれは知ることができるが、ふたりがいつ画面上でニット帽を脱いだかに注目せねばならない。その単純だが切実な身振りにこの映画は賭けられているのかもしれない。
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