濱口竜介監督自身、現時点での最高のキャリア作となった
「ドライブ・マイ・カー」を経ての本作は、石橋英子からのライブ用映像の制作依頼から始まったとの事だが、本来の彼のアートフォームに立ち返り作られた、実に地に足のついた作品では、ないだろうか。
そんな姿勢の濱口監督が私は好きだ。
「ドライブ・マイ・カー」直後にいろんなオファーがあったにも関わらず、監督自身の映画作りにおいての基準を変えずに作れるのだろうかと自問自答した結果、ナシにしたと。何てストイックで、まるでハードコアのパンクスみたいな精神性だ。メジャー流通でコントロールされるくらいなら今のインディーズで十分みたいな。
閑話休題
本作は勿論、現時点での有名な役者は皆無で、濱口監督の脚本力と演出力での具現性を信じ切った演者、スタッフが構築する“真冬の森”。その森を巡っての地元民と都会からの介入者達とのある対立の構図が映画の一つの軸となっているが、観て行くうちに会話劇も面白いが、ふとした間での所々で行間を読む。読まなくてはとさまざまな想像が駆け巡るのだ。何せ、タイトルが「悪は存在しない」だからである。
そして、あのラスト。相当脳内にこびり付いた。全てがあの結末に向かって進んでいたと考えるとゾッとする。
オルタナだ。平坦な映画と思いきや、ラストに向かって一気に加速する。
傑作。
