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悪は存在しないのbuddyのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.1
《この映画に答えを求める事じたい無意味なのかも。》
序盤の木々から見上げる空のショットからの主人公・巧の日常を映し出す長回しは、言葉がなくてもそこに漂う空気感や自然の営みに確実に本作の世界に瞬時に没入させられる。

せせらぎや林を歩く足音、薪割りの音、会話と会話の間にある何とも言えない行間に心が開放され浄化される感覚をおぼえると同時に、銃声や不穏な音楽が終始違和感を植えつける。それはこの世界に容易に足を踏み入れてはいけないといった警鐘にも聞こえてくる。

そしてラストの展開では、劇場全体で共有していた作品が一気にその場にいた観客個々のものとなり、一人一人に託された感じがあった。

あの時の劇場の空気感やその時生まれた感情はなかなか経験できるものではなく、無駄なものを削ぎ落としシンプルな素材でこれだけの事をやり遂げられる濱口監督の力量に言葉を失った。そして映画という存在の神秘性を改めて実感した。

このような作品は終わってすぐさま消化されるものではなく、しばらく作品のことが頭から離れなかったり、余韻が消えない。そう簡単には答えが出ないし、考えれば考えるほど答えを出すこと自体が無意味に思えてくる。観客がそれぞれの考えや物語を紡いでいってこそこの手の作品は成立する。

一言でこの映画を表すなら、悪は存在しない=善のみが存在するではない。悪や善といった概念すらもこの世には存在しないのかも。
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