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悪は存在しないのmasayaのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
4.3
世間を騒がす事件や社会問題は、その原因と結果ばかりに目が行きがちなんだけど、原因は原因でしかなく、結果は結果でしかない。本質は過程にこそ表れる。そして過程を描くのは映画の本分であるということ。濱口監督圧巻の新作。衝撃のラスト。これ以上はまだ、言葉に出来ない。

事前に聞いていた粗筋通りに話は進むけど、粗筋が何の意味も持たない、ファスト映画からは一番遠い所にある映画だった。父娘の淡々とした帰り道のやり取り、紛糾する説明会、異性の同僚との車内での腹の探り合い。会話で醸成され思わぬ方向に向かう心情を、観客は一本一本薪を拾うように丹念に汲み取る。

映画を観た後、じっくりと時間をかけて"咀嚼"してみると、あっさりとした風景の形をした凄まじい場面がいくつもあった。とりわけ痺れるのが彼女が水を運ぶだけのシーン。パワポスライド1枚で説明出来たはずの問題の奥深さを、何度も休まなければ運べないポリタンクの重さが千の言葉よりも雄弁に語る。

上流での些細な行いが必ず下流に影響を及ぼすという前提が通奏低音のように劇中を通して貫かれる。いくつもの要素が静かに絡まり合い、あの場面にたどり着く。何を解決した気になって、何をなおざりにしてきたか。ラストのタイトルバックと共に、頭の中で全ての伏流が下から上に、後ろから前に逆流する。

「悪は存在しない」。そう、悪とは結果でしかない。結果に見るべきものはない。だからここで映画は終わる。では、何が人を、自然をそうさせるのか。手がかりは無限にある。ありすぎるほどに。
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