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悪は存在しないのmmntmrのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
5.0
題の通り、すべての存在は加害者であり被害者でもあるという構図が多角的に表現されていて圧巻だった。

構図、配色も洗練されていてショットに説得力がある。石橋英子さんの音楽も当然映画のクオリティに大きく寄与していて、印象的だったのは音楽のぶつ切りが多用されていたこと。
叙情性のある音楽に尾を引かせない演出というか、観客の意識を支配するような意図を感じた。確かにあの演出によって緊張感や不穏な空気は弛むことなく劇場に充満してた。

ストーリーテリングやダイアローグは相当リアリティを孕んでいて、実際にあの町であった事実を参照しながら制作されただけあるなと感じた。

「我々もみんなかつてはよそ者だった」
「ずっとよそ者を受け入れながら続いてきた土地だし、破壊もしてきた。」
「要はバランスなんです」
「水は上から下へ流れる、上でやったことは必ず下に蓄積され、影響を及ぼす」

そしてラストシーンに本作のエッセンスを凝縮する。あの締め方は直後こそ不可解で放り投げられたような印象を受けるが、考え込んでみると素晴らしく意図された表現だったことがわかる。まるで純文学の冒頭のような。

「ここらの鹿は絶対に人を襲うことはない、例外があるとすれば、(撃たれて)手負いの鹿だ。逃げる気力がなければ、闘うしかないだろう」
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