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悪は存在しないのMypageのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
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初キネマ旬報シアター。

声と音が聞こえ始めて、余計にこの映像の奇妙さが際立つ。『GIFT』を観たときと、すべてのシーンで何かが少しずつ違うような気がする。さっきまで映っていたシーンと、何かが少しずつ違うような気がする。1人で歩いていた巧を距離をおいて並走するカメラ、長い岩影のシャッターが過ぎると、巧は花ちゃんを負ぶっている。カットが切り替わるたび、何かを少しずつ裏切っているような感じさえする。それは「時間」か。
『GIFT』を観たときよりも、花ちゃんの顔や髪が妙に大人びて見えるのはなぜ。車窓の景色は画面の奥に流れていく。つまり現在の風景は、少しずつ未来、ではなく少しずつ過去、の風景を含んでいる?演劇は過去の積み重ねの上に成り立つけど、映像は過去を捏造し、未来へ先走ろうとする。カメラに過去を晒すことができるか。論理を独立させて、心もとない過去をそのままに。そうしてはじめてスクリーンにも「時間」が映る。
「悪は存在しない」というタイトルが「水は低い方へ流れる」というフレーズを反復させ、より普遍的な響きを帯びる。
「低い方」にいる者たちの「声」。
論理は人物から独立している。
うどん屋で巧が鹿の話をしたのはなぜ。花ちゃんの迎えの時間をいつも忘れてしまうのはなぜ。銃声を初めて聞いたのにそれが銃声だと分かる。
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