善良なるものも存在しない。
人という独断的な存在が自然環境において、それ以外の多様な生物と共生している地球。
バランスが大事であり、意見が違う人であっても、人々は向き合い、対話を重ねながら折り合い、前に進んで行かなければならない。
あのラストシーンが無ければ、ここまでの気付きしか得られなかったかもしれない。
自然の摂理の元では、そんなささやかな希望や、独断的な動物の大前提など無に期すのだということ。
極寒の中、視界の悪い暗がりの森を、茨の道を、息も絶え絶えになりながら、それでも上を向いて進んでいくしかないのだ。
都市と地方のコントラスト。
利益至上主義の歪んだ現代社会。
芸能事務所社長とコンサル会社担当のクソさ加減が◎
地に足の着いた自給自足的な生活を送る巧のワンカットシーンがとても良かった。
チェーンソーで丸太を切る→斧で薪にする→台車で運ぶ→積む→煙草
=気持ち良い。
清流から水を汲む→ボトルに詰める→運ぶ→車に積む→戻る→水を汲む→岡ワサビ
=気持ち良い。
自然の摂理を理解し大切にしている巧が、酷い物忘れ設定だったり、一人だけ違和感のある話し方をするのは、シカと同様に自然界においては同じ動物なので、人の道理からは離れているということなのだろう。
ドライブマイカーでも印象的だった喫煙シーンは、人物の感情の変化や親密さの表現方法として、濱口映画の見所のひとつ。
車の後方に取り付けられた感じのカメラアングルが多用されていたが、過去を参照せよ、という意図に思えた。
区長の先生のセリフ、
「当たり前のことだが、水は上から下へ流れる。上に暮らす人はそれなりの振る舞いをしなければならない。」
政治家や権力者へのメッセージとして取ることも出来るが、この映画の場合、オーディエンス一人一人に向けられたものとして置き換えて受け取りたい。