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悪は存在しないのdgoroのネタバレレビュー・内容・結末

悪は存在しない(2023年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

サノスにも彼なりの考えがあって、一概には悪とは言えないよね
くらいの事を中学生でも言える現代において

または

それぞれの正義の名の元に争いが起こり、日々罪なき命が失われているこの世界において

「悪は存在しない」という自明の理である言葉をタイトルにする意図とは?

あらすじを読む限り高校生が学祭のクラス演劇用に考えたかのような凡庸さ、これをどう料理して映画として魅せてくれるのか?

これらの謎を解明すべく、我々取材班は公開二日目満席の劇場に潜入した!!
そこで、我々が観たものとは…!


冒頭、逆さまの木立と空
徐々に
宙に浮いて見下ろす足元の水面のように見え始め
物語が始まる

なるほど
「何も起きていない」

「何かが起きている」

境界線を曖昧にする試みが随所に

移動する車
森の中を歩く
鹿と出会う
森に消える

主人公は脳に何らかの障害があって物忘れがひどいのか?と思わせるような棒演技。
そういう設定ではないよね?

演技によらず(できないので?)会話が拠り所となるが、その中身が本当にただの会話なのでいつまで経っても全く人物像が伝わってこない。

タバコの吸い殻捨ててるところを見ると、野生動物も水源もどうでも良いんでしょうね。

娘であろう花との関係・距離感が全く分からない。

なんかお絵かきしてる場面もあったけど、あれはなに?

オナラして、くっさ最低、ってなにを伝えたかった?

村民説明会の印象は「出来の悪い再現VTR」

村長の言葉はまさに「上流から」の、ともすれば分断を煽って容易に選民思想に繋がる危うさ。
ノブリス・オブリージュ的なニュアンスも含まれてるのかもしれないけど、いずれにせよ控えめに言って鼻持ちならない。

親が迎えに来るのが遅いと、子供を1人で徒歩で帰らせてしまう学童保育所の不可解さ。昭和のお話ではないよね?

自分がお迎えを忘れた事が全ての原因なのに最後は逆ギレして暴力を行使?
ていうか、これで彼は本当に親なのか?

シュールなギャグのようなチョークスリーパー

これはもう、ここで終わるしかないのでは…?
と思ったところで

陽が落ち
暗い林の空が

一番高い場所にも見え
一番低い暗い水面にも見え

暗転

タイトル
「悪は存在しない EVIL DOES NOT EXIST」(ドヤッ)


ちょっと笑ってしまった

そっかそっか、誰も悪くないよねぇ

うん、その昔、僕の卒論を読んだゼミの先生が言ってくださった言葉を送ります

「これからっていうところで終わっちまったじゃねえか!」

いやマジでなんなんすか

『ドライブ・マイ・カー』めちゃ良くて、今回も期待してたんですけど

肩の力抜けまくっちゃったんですか、脱臼したんすか
まだ、「引退を仄めかした巨匠の見た夢」みたいな作品を作るような段階じゃないでしょ

素人さんの掛け合いとか車内でのやりとりが「これぞ真骨頂の会話劇」みたいに言われてますけど

そもそも「会話劇」って手練れの脚本家が書くような、思わず引き込まれて「巧いな」と唸らされるようなものなんじゃないんですか

「あるある〜」とか「リアル〜」とかって、それはただの世間話の抜粋であって、会話劇ではなくない?

その証拠に、一番解像度が高まったのはコンサル会社の人と事務所社長
観客が「あるある〜」「わかりみが深い〜」と思ったからでしょう。

三谷さんとか坂元さんとかクドカンとか、ああいうのが「会話劇」なのでは?


あ、薪割りのシーンは面白かったです。

薪がどのように割れるかはコントロールできない。
その意味では「その場で偶発的に起きていること」をリアルに捕らえているという、興味深いシーンでした。
木片が高橋の足元に飛んでったのも「おっ」って感じで、良かったな。

「あたかも本当に存在している如く見えるように準備して撮る」のが三宅唱監督だとしたら
「何かが本当に起きる瞬間を捕らえようと準備をしてカメラを回す」のが濱口監督
そんな風に感じていたので

これは重要な場面だな、と

このシーンで、きれいに薪が割れた時の高橋の心の動きは本物で、それを捕らえたんだな、と得心したのですが?

なので、彼がこれをきっかけに人生の進路を変えようと思うことには説得力がある、と思ったのですが?

なんだか「薪一本割っただけでこんな事言い出して、これだから薄っぺらい都会人は…」みたいな反応を期待してるというか、そんな風に笑ってた人も居たみたいですよね。
いや、少なくとも嘲笑う場面ではなくない?

心が動く理由に優劣があるんでしょうか?
うどん屋さんの移住のきっかけはそれよりも崇高なんですか?


では、一番「ええー?!」となった場面の話を

うどんを頂いて「あったまりました」という言葉って立派な感想だし、褒め言葉だと思うのですが、それに対して「それ味の感想じゃないですよね」って、どういう返し?

こんな言葉尻をあげつらったクソリプみたいなのが、気の利いた会話なんですか?

いいお店ですね
テーブルの趣味が良いですね
椅子の座り心地が最高
流れてる音楽、好きです
器の趣味が良いですね
量がちょうど良いです
etc.

全部、味の感想じゃないけど、褒め言葉ですよ

来た人に美味しいうどんを食べてもらって良い時間を過ごして欲しいとかじゃなく、うちは水にこだわってここに移住してくるほど意識高いお店なんだから「味の違い」が分かって、私等の生き様まで評価してくれるお仲間だけに来てもらえれば良いですと思ってるのならば今すぐ接客業辞めろサービス業舐めんなよ(ここまで息継ぎなし涙目) 

同じ接客業をしている身として怒りに震えるレベルだったのですが、なんか客席から笑い声あがってましたよね。

え、こんな返しで「世俗にまみれてものごとの本当の価値が分からない愚かで薄っぺらい現代人」に一矢報いてスカッとジャパン!みたいなレベルの低い嘲笑がお望みですか(ここまで息継ぎなし(再))と、更にドン引き

美味しいうどんを食べさせて
「水が違うんですよ」
「なるほど本当ですね」
って、相互に理解し合うチャンスじゃないの?

というか、そうじゃなかったら、なんのために巧は二人を連れてきたんだよ
どうなってんの、この脚本は

あ、監督が書いてるんですね。誰かチェックしてあげたほうが良いでしょ、これ

「食」を通じて価値観も種族も違う者同士が共生することがテーマの『ダンジョン飯』の爪の垢を煎じて飲んでください、マジで

うどん食べた感想を「味」について以外許さないなら、この映画の評価するべき「味」もきちんと分かるように示すべきでしょ

明らかに「悪」と見えるように差し出したものに対して「そちらにも色々事情があって悪とは言い切れないんですよね」
と寛容な素振りを見せておいて、最後は暴力を持ち出して、(その事自体も凄い暴力性を孕んでいて薄ら寒い)
「これらも全て自然界の中では「悪」とは言えないかもですよね?」って、なんじゃそりゃ

最初にも書いたけど、マーベルやディズニーですら「悪は存在しない」って示唆しちゃってる時代に何周遅れですか

監督はインタビューで「そこにあるものはそこにあるものであって、何かの比喩では無い」みたいな事を言っていたけど

だったらずっと見上げた木立と薪割りする人を撮ってなさい!

りゅう(竜介)のバカ!もう知らない!!



長くなってしまいましたけど、最後に一言だけいいですか


それでも

悪は

存在しない( ー`дー´)キリッ✨
dgoro

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